“失われた30年”から抜け出せない日本

ここでいう環境とは、自分のやりたいことを目指して努力を重ね、社会に貢献している人が多くいる状況と定義できる。松山選手がタイガー・ウッズ選手の雄姿に感動しゴルフの道を志したように、成功している人の姿を見て感動する環境は、人々がより高い成長を目指すために重要な一つの要素だ。その図式を企業に当てはめると、個人の努力と成功に周囲が共感し、さらなる挑戦が進む体制の整備が重要だ。端的にいえば、オープン・イノベーションだ。

ただ、過去のわが国経済を振り返ると、そうした環境の整備が容易ではない時期が続いた。1989年末に資産バブル(株式と不動産のバブル)はピークを迎え、1990年代初頭にバブルは崩壊した。その後、不良債権処理に時間がかかる間に韓国や台湾、中国など新興国の工業化が進み、家電などの生産はわが国企業が重視した垂直統合からユニット組み立てによる分業体制に移行した。

その結果、日本企業の競争力が低下し、わが国経済は“失われた30年”と呼ばれる長期の停滞に陥った。その間、わが国企業は自己変革を目指して新しいことに挑戦するよりも、既存の体制を維持し、それが難しくなれば資産の売却によって収益を確保するという厳しい状況に直面した。

モノづくりの力が再び求められている

しかし、徐々にわが国企業には、かつてのような勢いや、競争への自信が戻りつつあるように見える。その象徴が機械産業だ。2018年以降の中国経済の“成長の限界”への懸念、米中対立の先鋭化、さらにはコロナショックの発生によって、海外からわが国の工作機械への需要は一時期落ち込んだ。

昨年後半以降、中国での生産活動の回復、世界的な半導体の需給逼迫などによって海外からわが国の工作機械への需要は高まった。それに加えて、2021年3月には、2年4カ月ぶりに工作機械への内需が前年同月比でプラスに転じた。

その意味は大きい。世界が、わが国の精緻なすり合わせ技術を生かしたモノづくりの力を求めている。具体的には、半導体の製造、工場の省人化を支える制御機器や関連パーツ、自動車の生産などのために、わが国の製造技術の重要性が一段と高まっている。