焼き芋の屋台で売っていたのは…

——さっき客がさむがってると言っていましたが、先日売り子が立っていたのを見掛けましたが。

「少し前、ほんの数日前までは売り子は立っていましたね。一時期はホンマにいなかったんやけど、段々立つようになりましたね。だけど卸元からキツイお達しが出て、いまは立っていたらさらわれるんとちゃいますか。

だから電話で商売している人間が多いんとちゃいますか。ホンマに買えるのは近場だったら大国町(浪速区)とかやないですか」

電話でのデリバリーは、筆者が知っている限り20年前から行われていた。1回売り子から覚醒剤を買うと電話番号の書いた紙を渡され、次回からは決めた場所に配達をしてもらう方法だ。

当然デリバリー代は加算されるが、客にとっても捕まるリスクが少ないので重宝されていたのである。

——屋台でも売っていたことが話題になりましたよね。

「あぁ、一時期はそんな噂もありましたね。今は無いから言えますけど、屋台言うてもおでんとか焼き鳥とちゃいますよ」

——一体何の屋台で売っていたんですか?

「焼き芋ですわ。四角公園の前でしたわ。そこに普段は並んでないのに行列ができとるやないかい、と思って並んだんですわ。そしたら順番が来て渡されたのはシャブとキー(注射器)が入っている焼き芋の袋ですわ。みんなが早よせえ、みたいな視線でジロジロ見るからしゃぁないから高い金を文句言いながら払いましたよ。そんな出所の分からないシャブは人にくれちゃいましたわ」

世間で少し前に噂になりネットニュースにもなっていた屋台の正体は、おでんや焼き鳥ではなく焼き芋であった。

西成でも覚醒剤を手に入れにくくなってきた

——いま、西成を歩くと“覚醒剤を売るな”とかのポスターが貼ってありますよね。

「あれはポーズですわ。居酒屋とか駐車場で売るな書いてますやろ、実際そんなとこで売ってませんって」

西成の至るところで見かける「覚醒剤を売るな!」のポスター
筆者撮影
西成の至るところで見かける「覚醒剤を売るな!」のポスター

——昔、通天閣の下に売り子というか売人がいましたよね?

「えーはいはい。でも今は通天閣も観光地になってるから。大国町(浪速区)か西成の、名前は言えへんけど、目立たない場所とか。でもそこの売り子は立っているだけで、電話してシャブを持っている人間に繋げてというシステムやね。シャブを持っている人間は車で動き回っているから」

シャブが欲しい欲求に駆られた人間はすぐに欲しがる。

時間が掛かったら客は他所に逃げてしまう。しかし、売り子が少ない現状では客は多少の時間を待つことを強いられるのだ。

——売り子の儲けはどのくらいですか?

「3000円くらいやないですか」

太田氏は口を濁したが、昔からこの地域の覚醒剤の売り子の取り分は、そんなものだったはずである。

花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)
花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)

覚醒剤の売り子が商売できる期間は最長で6カ月と言われている。しかし、6カ月でも十分儲けられる時代があった。身体を掛けても十分満足できる額を残せる時代があったのだ。

——昔は西成の街から出なければ安心だったじゃないですか。いまは逆ですか。

「そうですね。警察のほうも目が肥えとるから。他府県ナンバーでグルグル回っていたら一発で職質を喰らうし、シャブを引いた時点で捕まりますわ。だからホンマに西成の中では買う手配はできますが、簡単に手に入らないんとちゃいますかね。ホンマにここで覚醒剤を欲しかったら売り子が泊まっているドヤを見つけるのが早いんとちゃいますか。彼らのドヤは手入れが入るまで変わらへんから」

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