昔は覚醒剤に関して「治外法権」だったが…

——ハーフで1万円くらいですか?

「そうやね、それ以上出したら誰も買わへんしな。ここらじゃ」

末端の客はワンパケを1万円で買う。ワンパケは通常0.2から0.3グラム入っている。

1回分の量は耳かき分くらいと言われるが、それは初心者の場合で、通常はワンパケで3、4回分にしか過ぎない。

たったそれだけの快楽に覚醒剤常用者は1万円という対価を支払う。

——安いですね。

「ぼくが知る限り、日にもよりますが高いとこでも1万2000円くらいですね。仕入れ先が捕まって卸元が変わったり、ホンマにシャブが少ない日もあるやないですか。そんなときは1万2000円でも飛びつくように買うんとちゃいますか」

覚醒剤で有名な組織が抗争していても覚醒剤が無くなることはなかった。抗争中でも相手組織に覚醒剤を売ることが当たり前の世界である。

覚醒剤の法令で麻薬特例法が成立し、覚醒剤のシノギは完全に地下に潜った。西成でもそれは例外ではない。

——関東では覚醒剤は高いですが、なんで西成では相場がそんなに下がったんですか? 商品がだぶついてるんですか?

「客がそんなにさむがって来ないんですわ。昔の西成は関西から集まって競うように買っていたけど、今は時代が変わって、ホンマにさむい」

覚醒剤に関して一時期西成は治外法権とまで言われていた。ワンパケを売るほかに、1発覚醒剤を打つ商売まで成り立っていた。

1発売って2、3000円だったが、それをキメて仕事に行く西成の労働者も多く存在していた。

飯を食わなくても覚醒剤は欠かせない人間は多くいたのだ。

西成では、夜になると多数の警官が巡回をはじめる。
筆者撮影
西成では、夜になると多数の警官が巡回をはじめる。

タチの悪い薬局が注射器を売る場合も

——関東だとワンパケ0.3グラムですが、ここらへんは0.2グラムが普通ですか?

「知っている人がやっているとこは、基本ちっちゃいパケで、0.2グラムくらいが多いですね。元々西成はそんなもんとちゃいますかね。ぼくが知っている限り0.2グラムですわ」

——警察は末端価格でグラム6万から6万5000円で計算していると言われていますが。

「ホンマにそんな値段で買うてる人間がいたら笑いますわ。僕の知っているとこやったらハーフでもキー(注射器)で2本くらいつきますね」

覚醒剤は盆と正月は値段が変わる。それはいつの時代でも変わらない。

覚醒剤の値上げがきついときは注射器で利益を得る方法が当たり前の世界だ。1本100円くらいの単価で業者販売されている注射器が、10倍以上の値段を付けられるときがある。

本来は医療関係者しか手に入らない注射器がなぜ市中に出回るのか。

その内訳は質の悪い中国製の注射器と、医療関係者からの横流しだと言われている。タチの悪い薬局が一般に売っている例もあったが、それらはすぐに警察の目に留まり、店の目の前で職質などをして、覚醒剤を使うであろうと思われる客を摘発していた。

別に注射器を持っているだけでは罪には問われないが、それを使用する目的が違法行為に繋がっていることが多く、注射器を買い求める客の尿検査をしたら陽性反応が出て逮捕されるというケースも多い。