鋭く深い観察眼ゆえに奏功した打順変更や代打の采配
今大会で打順変更や代打の采配などが的中したのも、この鋭く深い観察眼ゆえだ。
野球部監督には上から目線の指導者が多いが、川崎は硬軟織り交ぜる。例えば、かつて同校で起きた「カードゲーム」事件がいい例だ。
ある晩、野球部寮の消灯時間をすぎても部屋でカードゲームの「UNO」をやっている選手たちがいた。翌日、川崎はその部員らに告げる。
「だったら、今日の練習はUNOだな」
該当選手にマウンド上でUNOをさせたのだ。大分在住で九州の高校野球を取材するスポーツライターの加来慶祐氏はたまたまその場面を目撃していた。
「監督は、好きなだけやれ、と。確か4人だったと思います。2時間ぐらいはやらせていました。他の部員はマウンドを避けて狭い範囲で練習をしていました。
監督は、自分勝手にルールを破れば、周りにどれだけ迷惑がかかるか、ということをわからせたかったのでしょう。この一件以来、チームに規律とまとまりができました」
川崎が教え子の選手を観察する場はグラウンドだけではない。それは、野球部寮だ。中でも川崎が重視するのが、寮長。寮長に求めるのは、まじめで落ち着いてコツコツと努力するタイプだ。
現在の寮長は、今回のセンバツ初戦の東播磨(兵庫)戦で4番を打った米田友。米田は秋まではレギュラーではなく、背番号15の控え選手だったが、冬の間に鍛え、スタメンを勝ち取った。市和歌山戦では貴重な先制ホームランを打った。
2019年の寮長も秋の新チームではサードコーチを任され、夏には背番号5をもらうまでに成長する選手だった。地味な練習を積み上げた人間は最後にレギュラーを勝ち取る。
監督は努力を見届けて、チームの核としての技術能力、精神的な強さを評価するのだ。
「洗濯も自分でする」監督の自己分析「人見知り、地道にコツコツ」
監督は自らをこう分析している。
「人見知りでガツガツしていない、地道にコツコツと努力する」
きっと寮長にも、自分と同じようなタイプを知らずしらずのうちに求めているのかもしれない。
そうしたチーム内リーダーの存在もあり、明豊は他チーム以上の一体感がある。
といっても部活や体育会的なノリではない。実は、上下関係が緩い。チーム内で上級生から下級生へのいわゆる使い走りは厳禁だ。「自分のことは自分でやる」が徹底されている。忘れた帽子は自分で部室に取りに戻る。飲みたいジュースは自分で買う。訪問者は監督自らユニフォームを洗濯しているシーンに出くわすことが多々あるそうだ。