「オーナーに会わせていただけませんか?」
雷が頭に落ちた。鳥肌が立ち、震えが止まらなくなった。なんだこの見たことのない空間は……。次の瞬間。頭のなかで鮮やかではっきりとした映像が突然広がった。僕が春水堂を日本中で展開しているシーンだ。
(この店を、俺は日本でやるのか……)
なぜか……。もはや理屈ではなかった。ここで春水堂について、少し説明しておこう。タピオカは、キャッサバの粉を丸めてゆでた伝統的なスイーツ。それと甘いシロップなどが入ったお茶とを混ぜ合わせ、太いストローで飲むのが台湾のソウルフードともいえるタピオカミルクティー。
このドリンクを開発したのが、1983年に創業、台湾に50店舗以上ある国民的人気カフェ「春水堂」だ。茶葉の質にこだわり抜いた絶品のアレンジティーとカジュアルな台湾料理、そして上質なインテリアと空間。伝統とモダンのハーモニーが台湾の人々の心をとりこにし、ナンバー1ブランドに上り詰めた。
世界中にファンも多い。そして、この春水堂。お茶と料理、サービスの質を保つため、あるポリシーをかたくなに守ってきた。春水堂の本店で、「日本での展開」を突然思い描いてしまった僕は、衝動的に店の人に頼んでいた。
「オーナーに会わせていただけませんか?」
店の人のあっけない返事は、こうだった。
「そういう人が世界中からたくさん来ます。全員断れ、と言われています」
春水堂には、こんなポリシーがあると知った。海外には絶対に出ない。品質を守るため。春水堂のブランドを守るため。海外で半端なことをやられたら、台湾での名声も危うくなるから。しかし、ハイ、そうですかと諦めるわけにはいかない。
ついにオーナーと面会することに
春水堂への想いが日に日に大きくなる。そして、やっと、これをやりたいと湧き上がる魂の叫びを聞けたのだから。
大袈裟でなく、これは運命だと感じていた。台湾での水道事業をはじめていたが、心、ここにあらず。台湾に来るたびに、月に3~4回のペースで、春水堂に通った。すると通っているうちに、同じ年頃の男性店員と仲良くなった。
彼とは色々な話をするようになった。通いはじめて1年半が経とうとしていた。オーナーにはやはり会わせてはもらえなかった。残念だけど、さすがの僕もそろそろ引き際かな、と思った。これで最後にしようと、熱苦しいほどの想いを綴つづり、中国語に翻訳したそれはそれは分厚い資料をまとめて、彼に手渡した。
「最後のお願いです。これをオーナーに見せてほしい。それでも僕に会いたいと思ってくれなかったら、今日を最後に諦めます」
1週間後、彼から1通のメールが来た。
「オーナーに見せました。関谷さんに会いたいと言っています」
僕は喜んですぐ台湾に飛んでいった。夢にまで見たオーナーと面会することができた。あとで知ることになるのだが、この仲良くなった男性店員は、オーナーの息子さんであった。想いは運をも引き付けた。