マッキンゼー人材がなぜここまで伸びるのかといえば、「新卒採用の場合は32歳、中途採用の場合は35歳までに社長になれないやつはダメだ」と言って、彼らをガンガン鍛えたからだ。日本の大企業とは違って、1年目から経営的な視点を持つようにさせ、今ではパワハラと言われてしまうかもしれないくらいに徹底的に鍛えた。

日本特有の人事システムが、日本企業の経営力の低迷を引き起こす

そういう実体験から感じたのは、1年目からそういう教育システムで鍛えられたら、日本人でもアメリカ人や中国人に引けを取らないくらいまで育つということだ。日本人はアメリカ人や中国人のようにうまくビジネスができないという意見もあるが、そんなことはない。単に年功序列などの日本特有の人事システムが、日本企業の経営力の低迷を引き起こしているにすぎない。入社して10年以上見習いみたいな仕事をさせれば、そういう染色体を持った人間が生き残ってしまうのだ。大卒の約3割は3年以内に退職してしまうという統計もあるくらいだ。

とはいえ、今のマッキンゼーは様変わりしてしまっている。マッキンゼーに限らず他のコンサルティング・ファームもそうだが、クライアント企業が優秀な人材を採用できないからと、コンサルティング・ファームが頭脳人材を集団派遣しているというのが実態だ。企画部隊に企画をさせ、企画部隊とは違った実行部隊が実行の面倒を見るというような、いわば「高級人材一時貸し出し会社」のようになってしまった。

私がいた頃のマッキンゼーのような人材育成システムを実践している企業といえば、創業者・江副浩正氏が唱えた「32歳定年説」を実践するリクルートがある。新卒で採用されてから10年後に1000万円をあげるから、それまでにリクルートを卒業しなさいというわけだ(近年は「32歳」ではなくなっているが、リクルート出身の起業家は少なくない)。このほか、最近でいえば「新入社員に社長をやらせる」仕組みがある、藤田晋氏が創業したサイバーエージェントもユニークだ。1年目から社長になれば、戦略だけでなく人事の問題、財務の問題など、経営に必要な幅広いノウハウが実践的に身についていく。

日本の伝統的な企業では、若手・中堅社員は上司の資料づくりばかりで、経営に初めて触れるのは入社してから20~30年後。そんなトップが経営する日本企業の業績が伸び悩んでいるのは至極当然だろう。日本企業は人事制度を抜本的に見直し、優秀な人材を世界中からサイバー採用したり、加速インキュベート(育成)するシステムの構築を、果敢に実行に移していかなければならない。

(構成=小川 剛、結城遼大 写真=時事通信フォト)
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