コネも資金もない若い人でも、巨額の富を得られる

この基本的な仕組みは、株式会社だけではなく、有限会社や合同会社でも同じです。近代になり、船は工場やオフィスに置き換わり、航海のお金を出す商人たちは共同出資者や株主になり、水夫たちはオフィスの同僚や上司になりました。

しかしこれから働く場所が関係なくなれば、わざわざ複数の人と集まって、オフィスで働いたり、自ら工場やオフィスワーカーを抱える理由がなくなります。かつてに比べて、安価に、そして、簡単な方法で、仮想空間で、限られた期間だけ会社のような形態を作って仕事をすることが可能になったからです。

その象徴のような例がイギリスにあります。ジャック・ケイターは、ノフォークで16歳の高校生だった頃、コンピューターで遊ぶのが趣味でしたが、学校内のネットワークから、自分の好きなウェブサイトにアクセスできないことを不便に感じ、ある日の午後、自宅のリビングで、ノートブックコンピューターを使って「Hide My Ass!」というVPNサービスを立ち上げます。

VPNとは、一般に開放されているインターネット上で、自分専用のネットワークを作って使用するサービスのことです。

「Hide My Ass!」は、その便利さから、ネット掲示板などで徐々に話題になり、ケイターはサービスを拡大します。その際に、仕事をしてくれる人は、すべてUpwork.comなどのフリーランサーを雇うサイトから募集しています。

システムアーキテクトはウクライナのウクライナ人で、その他の協力者もセルビアなど世界各地に散らばっていました。フリーランサーは時間単位で雇用し、一度も会うこともなくサービスを拡大していったのです。

事業を本格的に拡大することになって、ロンドンにオフィスを構え、一度も会ったことがなかった人々をオフィスに呼び寄せました。2014年にはサービスを約48億円で売却しています(出典:The Guardian「HideMyAss! Your secret’s safe with Jack」)。

この事例が示すように、今や、アイディアさえあれば、世界中に散らばっている人と仕事をすることで、コネも資金もない若い人でも、巨額の富を得ることができるのです。

グローバル通信ネットワーク
写真=iStock.com/metamorworks
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世界中から時間単位で働く人を探すことが可能

一方で、ケイターが採用したフリーランサーたちは、ウクライナやセルビアなどの新興国に住んでおり、地元のイギリス人ではないことにも注目すべきです。イギリスにも同じスキルを持ったサラリーマンやフリーランサーはいますが、適切なスキルを、妥当な報酬で提供する人が、物理的な距離を超えて雇われてしまったのです。

設備も資金もコネもない高校生ですら、世界に散らばる専門家を時間単位で雇い、管理し、成果物を確認し、事業を展開することができるということは、これが、資金もコネも人材もある企業の場合は、より大きな規模で可能になる、ということです。

つまり、物理的な空間が関係ない仕事であれば、世界中から、時間単位で働いてくれる人を探すことが可能なのです。企業経営者から見た場合、正社員を抱えているよりも、必要な時に必要な技能や知識を持った人を、一時間いくらで雇うことができれば仕事は終わるので、わざわざ「カイシャ」という形態にする必要性がないということです。