その後、松崎さんから改めて協力の依頼があった。4年に一度開催されるブラインドサッカーワールドカップの初の日本開催が、2014年11月に控えていたのだ。ブラインドサッカー協会、そして選手にとって一世一代の舞台に向けて、澤田さんが考えたコピーは「見えない。そんだけ。」。

ブラインドサッカーの大会ポスター
ブラインドサッカーの大会ポスター

この言葉が記された大会のポスターが発表されると、大きな反響を呼んだ。それは、澤田さんにとっても想像を超えるものだった。

「福祉関係者のみなさんから、すごく褒められたんです。僕の会社だけでもコピーライターは数百人いて、コピーが書けるなんてなんの強みでもないのに、環境を変えたら重宝されて、コピーも評価された。この時も、イギリスからアメリカに引っ越した時の新鮮さを思い出しましたね。なにより、自分の小さな力を社会に役立てることができて、嬉しかったです」

コピーライターの枠を超えて

このコピーをきっかけに、社内でも追い風が吹き始めた。澤田さんが無償でコピーを書いたことを知って、「短絡的な利益を出すだけじゃない。こういう仕事も広告会社の役割だよね」と理解を示してくれる人が増えたのだ。

それから、澤田さんは福祉の世界で存在感を増していく。松崎さんに続き、話を聞いた200人のうちのひとりであるパラリンピックカメラマンの第一人者、越智貴雄さん、日本有数の義肢装具士の臼井二美男さんから相談を受けて、義足女性にスポットライトを当てた「切断ヴィーナスショー」のプロデューサーに就任。2015年、横浜で開催されたショーはテレビや新聞、海外メディアにも取り上げられ、全国で継続的に開催されるショーとして発展する契機となった。

義足女性にスポットライトを当てた「切断ヴィーナスショー」
写真提供=澤田さん
義足女性にスポットライトを当てた「切断ヴィーナスショー」

アパレル企業のユナイテッドアローズとは、障害のある具体的な「ひとり」に合う服を開発。「041(オールフォーワン)」と名付けられた服は、2018年4月に発売されると、障害の有無を問わず、デザイン性や機能性の高さに惹かれた人たちが購入していった。

視覚障害者の肩に乗せて使う忍者型ロボットも開発した。これは、障害や病気で外に出られない人がモニター越しに視覚障害者の目になり、同時に、視覚障害者と一緒に外出している気分を味わえるというものだ。2018年11月にデビューすると、全日空やライフルなどの協賛企業から「観光ガイドのサポート役として使えないか?」という声が上がり、実験が始まっている。

障害者ではないが、2016年には高齢者を元気づけるプロジェクトとして、全国2位の高齢県である高知県と組んで「爺-POP」も生み出した。平均年齢67.2歳の5人組は、澤田さん作詞作曲の歌でデビューを飾ると瞬く間に注目を集め、メジャーデビュー。第2弾の歌も出した。

高知県と組んで「爺-POP」も生み出した
高知県と組んで「爺-POP」も生み出した

福祉の世界と向き合うと、舞台や服、歌のプロデュース、ロボットの開発と、コピーライターの枠を超えた仕事がどんどん増えていった。それが、澤田さんのやる気に火をつけた。