「広告業界の仕事は、僕じゃなくてもできる人がたくさんいますが、福祉の世界にいくと、広告的なクリエイティブワークをできる人がほかにいなかったんです。そこで、『あなたしかいません』と言われたら、本気で取り組むしかないでしょう。誰かから求められて働くという喜びを、初めてちゃんと味わうことができました」

息子と自分のために考えた「ゆるスポーツ」

福祉業界のクリエイティブディレクター兼プランナーとして縦横無尽に活躍し始めた澤田さんが、誰かのため、ではなく、息子と自分のために考え出したのが、ゆるスポーツだ。

視覚障害を持つ息子と一緒に、体を動かして遊びたい。そう願った時、絶望的なほど選択肢が少ないことに気づいたのだ。パラリンピックで採用されているスポーツは競技性が高く、一定のトレーニングが必要で、子どもと遊ぶには向かない。ブラインドサッカーも同様だ。

そもそも、澤田さんは自他ともに認める運動音痴で、大のスポーツ嫌い。つまり自身もマイノリティだったのだ。自分も参加することを前提にすると、もはや息子と一緒に楽しめそうなスポーツは世の中に存在しなかった。

それなら、自分で作るしかない。澤田さんが最初に考案したのは、ハンドソープボール。手によく滑るハンドソープをつけてプレーするハンドボールで、試しにやってみると運動神経がよい人も悪い人も、健常者も障害者も関係なく、珍プレーの連発。試合中も試合の後も、笑いが絶えなかった。澤田さんも存分に楽しめた。

澤田さんが最初に考案したハンドソープボール。手によく滑るハンドソープをつけてプレーするハンドボールだ
写真提供=澤田さん
澤田さんが最初に考案したハンドソープボール。手によく滑るハンドソープをつけてプレーするハンドボールだ

この体験をもっと広めたい。ほかの競技も作りたい。そう強く願って2015年4月に設立したのが、世界ゆるスポーツ協会。澤田さんの声がけによって業界を超えてさまざまな人が集い、「笑顔じゃなくて笑いをもたらす」「勝ったら嬉しいけど負けても楽しい」「一度体験すると誰かに共有したくなる」といったコンセプトのもとに、続々と新しいゆるスポーツを生み出していった。

イモムシ風のウエアを着てゴロゴロ転がったり、這いながら行うイモムシラグビー、点字ブロックをプラレールのように組み合わせてコースを作り、アイマスクして白杖を持って完走を目指す点字ブロックリレーなど、これまでに90の競技が誕生した。驚くべきは、ゆるスポーツがひとつのビジネスとして発展していることだ。

イモムシ風のウエアを着てゴロゴロ転がったり、這いながら行うイモムシラグビー
写真提供=澤田さん
イモムシ風のウエアを着てゴロゴロ転がったり、這いながら行うイモムシラグビー

「収益軸はいくつかあって、ひとつは企業や自治体からオリジナルのスポーツを作ってくださいという依頼を受けての開発。二つ目はレンタル・リースで、商業施設、スポーツ施設に用具を含めて競技を貸し出します。ゆるスポーツを使ったイベントをゼロから企画運営してほしいという依頼もありますし、研修事業やグッズ販売などのマーチャンダイジングもしています」