「海の美化」「子供の見守り」を支援するスキーム

SDGsへの関心は大手企業だけではなく、中堅以下の企業などにも広がっている。ダイドードリンコの西日本第一営業部では、こうした法人への自販機営業の場でSDGsを話題にすると、「気にはなっているが、何から手をつけてよいかわからない」といった声を聞くことが増えているという。

大阪府のいわし巾着網漁業協同組合との商談のなかでダイドーの担当者は、海を綺麗にしたいという思いを漁協はもっていることに気づいた。自販機の収益の一部を、海の美化を目的とする団体に寄付するスキームを提案したところ、十数台の新規設置が決まった。

大阪府四條畷しじょうなわて市では関西電力と連携し、児童の見守りのための「見守り端末」の配布と、通学路などの電柱への基地局設置を進めていた。しかし、電柱に機器を設置し、メンテナンスする体制を整えようとすると、通常の電柱管理を超える大きな負担が電力会社などにのしかかる。

そこで浮上したのが、自販機への基地局設置である。自販機の屋上に機器を設置することは、電柱よりも容易であり、飲料の補充のためにオペレーターが定期巡回しているため、メンテナンスの追加負担も軽度である。こうした地域貢献への参加もダイドーは行っている。

「社会的責任を果たしたい」という企業ニーズの高まり

近江商人の「三方よし」の精神など、わが国の経営者たちは、企業が社会責任の担い手であることを古くから認識していた。環境保全や文化事業、社会福祉や地域振興のための活動を支援したり、自らが取り組んだりする企業は多くある。

21世紀の地球では温暖化が続く一方で、経済危機や社会格差、感染症や地震災害など、未解決の社会課題が今なお多く存在する。他方で多くの国が新自由主義的な政策を採用するようになり、規制緩和が進む。そのなかで投資家や消費者、そして働き手の意識も変化している。

市場の変化は企業を動かす。かつてF.A.ハイエクが説いた市場の調整機能は、21世紀にあっても健在なようだ。わが国でも多くの企業が、社会的責任への取り組みはIR、採用、ブランディングなど、本業においても有効だと受け止めはじめている。

市場における変化は、池に投げ込まれた小石の波紋のように広がっていく。SDGsをめぐる波紋はさらに、大企業の本社などのスタッフ業務を超えて、本業のラインを支える営業の最前線にも及びはじめている。