「俺が何とかする!」空回る“父能研パパ”が子の学習意欲を減退させる

突然のリモートワークで中学受験に意識が向いた父親が「俺が何とかする!」とばかりに張り切りすぎ、逆に子供の学習意欲を減退させる悪循環はコロナ禍受験の大きな特徴のひとつである。こうした父親は、大手塾の名前にひっかけて「父能研パパ」と揶揄される。わが子の勉強管理を完璧にする「エクセルパパ」と同様、場合によっては子供の成長を止め、潰してしまいかねない存在だ。

このベテラン室長は「よくない父親の害悪」について、以下のように語る。

「自分が10代だった頃の価値観で学校を評価する父親ですね。当時とは全く違う受験環境であることを受け入れず、自分で描いた進路をわが子に押し付ける父親は少なくありません。さらに、危険なのは“交換条件”を出す父親です。『偏差値◯◯になったら、あそこの学校受けていいよ』という言葉に代表されます。わが子の奮起を促す狙いでしょうが、受験には悪手となるので、やめていただきたい。なぜなら、偏差値◯◯が上限となってしまうから。本来は『受験で得る様々な力の獲得』が受験の目的ですが、偏差値◯◯が目的になるため、結果的にそれ以上伸びず、合格できないことがある。父親の余計なひとことが成長を止めてしまうのです。『わが家はこの学校を目指して頑張ろう!』がシンプルで一番いいんです」

時代背景的に考えて、彼ら父親は子育てや子供の受験に積極的に関わっていなかっただろう。よって、父親はマネできるモデルケースを知らない。それでも「父親も子育てに関与すべし」という昨今の空気に対応すべく、戸惑いながらコロナ禍で行動したのだが、それが完全に裏目に出たということだろうか。

「思い返せば『圧をかけた』だけの父親でした」

大手企業の営業職で関西在住のKさん(40代前半・男性)は、今年、一人娘の中学受験を経験した。Kさんは「思い返せば『圧をかけた』だけの父親でした」と反省の弁を口にする。

少女
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Kさん宅が娘の受験を決意した理由は、地元公立中が荒れていたこともあるが、自宅から徒歩10分の場所にある私立中高の教育方針に感銘を受け、そこに娘を6年間預けたいと思っていたことが大きい。

通塾開始は小4の2学期。志望校は中堅私立中高一貫校だったが次第に「有名(難関)校へのチャレンジ」という目標に知らぬ間に置き換わったそうだ。背景には、指導する進学塾にとってはそのほうが「チラシに載せられる(=宣伝になる)」という大人の事情もある。

「『模試の結果は気にしないように』と娘に言いながらも、いざ成績表を見ると、『こんな間違いしているのか』とつい、叱ってしまいました。ウチの子はなかなか自主的に動かず、『ここで勉強しておかないと!』という気持ちになるのが遅いので、これではダメだと、夕食後や、休日の過ごし方について、何度も注意しました。それで、できるだけ自分も同じ“姿勢”を見せるために、娘の勉強部屋で仕事したり、問題を作ったりしていました」

Kさんは、いつのまにか塾にお金を投資しているような気になり「難関中学合格」こそが、その「リターン」であるとの思考法になっていく。

ただ、娘が頑張った甲斐あって、小6夏の模試では偏差値56にジャンプアップ。ところが、秋の模試では46で夏前に逆戻り。その後、娘は一時、嘘の結果を申告したり、「成績表を見ないで」と懇願したりしたそうだ。悪い流れである。