友人に特別感を味あわせる「ベンツ紹介」

考え抜かれた勧誘テクニックや長期間にわたる友達付き合いの他、分かりやすいブランドで特別な気分にさせる手法も使われる。師匠への紹介がそれである。

Cさんが所属していた管轄では、師匠への紹介でよくベンツでのドライブを使っており、これを「ベンツ紹介」と呼んでいたという。「成功している経営者である師匠が、あなたのために特別に時間をくれたから」といって師匠のベンツに乗せ、師匠が成功していることを印象づける。

勧誘する側はあたかも特別なことのように言っているが、実際はベンツ紹介する日が決まっており、弟子たちがGoogleカレンダーに30分刻みで予約を入れていたという。師匠はそれに従って一日中同じエリアを周回するわけだ。いまどきの若い子は車に関心がないことが多いが、それでも高級車に乗っていることが特別なことだと感じていたようだ。

このベンツ紹介でも、妙に細かい工夫をしていたとCさんは言う。

「これから紹介する人物が、他のメンバーと大規模な飲み会で顔を合わせていることは少なくありません。そのため、ベンツ紹介での乗り降りの際にはち合わせしてしまうと、『なぜ、あの飲み会で見た人が同じ人のベンツに乗っているのか?』と妙に思われてしまいます。これは絶対に避けなければいけません。

このため、前の回のメンバーから完了連絡をもらってから現場に向かったり、乗り降りの場所をずらしていました。ほかにも、同じような紹介として、『タワマン紹介』もありました。これは師匠のタワーマンションに勧誘対象者を連れて行くものです。

この時もはち合わせしないよう、完了連絡を徹底するとともに、入る場所と出る場所を変えたり、タワーマンションに行く際のルートと帰る際のルートを変えたりと工夫をしていました。

タワーマンションを出たら、わざわざ道路を渡って別の道順で駅に帰るんです。これを複数の構成員が一日中繰り返します。この他カフェで紹介するチームもあるようですが、はち合わせしないための工夫をするのは同じようです」

アップデートされ続ける勧誘手法

高級車を乗り回し、タワーマンションに住む師匠はさぞかし余裕のある生活をしているのだろうと思った筆者がCさんに質問したところ、意外な答えが返ってきた。

「師匠は『会員に夢を見せなければいけない』と、さらに上の幹部から半ば強制される形でベンツやタワーマンションを購入していたようです。ベンツについては中古で済ませていたり、共同所有していることもあるらしく、実際にはあまり余裕がないのではないでしょうか。また、師匠は日々の弟子からの報告やミーティング、セミナーで忙しく、時間的にも余裕があるようには見えませんでしたね」