民間のビジネスパーソンを抜擢
昨年4月17日、英国政府は首相直轄の「ワクチン・タスクフォース」を立ち上げ、トップにケイト・ビンガム(55歳)を据えた。オックスフォード大学の生化学の学位とハーバードのMBAを持つ女性で、シュローダー・ベンチャーズでバイオテクノロジー企業への投資に長く携わってきたベンチャー・キャピタリスト(新興企業投資家)である。
こういう専門知識と民間のビジネス感覚を持つ人物をトップに起用し、製薬会社等との交渉に当たらせた点で、素人の大臣が役人にサポートされながら交渉をしている日本とは異なり、交渉の質やスピード感は格段に向上した。
同タスク・フォースは、まだ開発段階でも有望なワクチンを見極め、開発への助成や購入契約を結んだ。アストラゼネカ、ファイザー、モデルナ、ノヴァックス、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどから確保した量は4億5700万回分以上(1人2回として全人口の約3.4回分程度)に上り、ボリス・ジョンソン首相は、余剰分は貧困国に無償で提供するとしている。
これに対して日本が3月中に確保できるのは236万回分(人口の53分の1)であり、英国のみならず、人口の2~5倍の量を確保している先進各国(含むEU)に比べて大きく見劣りしている。
ロックダウンの長期化は何としても避けたい
英国がこれだけ大規模かつスピード感をもってワクチン接種を進めているのは、政治家の力量もさることながら、それだけ状況も切羽詰まっているからだ。昨年3月23日以来、時期によって規制の度合いに強弱の差はあっても、英国はずっとロックダウンないしはそれに近い状態が続いている。食料品店、銀行、薬局など、日常生活に絶対必要な店や施設以外はほぼ一貫して閉鎖され、廃業する飲食店や商店も多い。日本のように、時短営業はあっても、ほとんどの店が開いているという状況とは大違いである。
今も同居していない家族が屋内で会うことは禁止されているので、介護施設に入居している老人の子どもや孫が、施設の窓の下に来て、ガラス越しに話しかけている光景を見かける。
日本は幸いなことに、理由は不明だが、感染者数・死者数ともに、諸外国に比べて格段に少なく、ロックダウンもせずに済んでいる。そういう意味では、英国ほどに急いでワクチン接種を進める必要はないのかもしれない。ただハンコック保健相は「Every day we save now is lives we will be saving in a year’s time(今日一日短縮することは、一年後の命を救うことだ)」と常々言っていたそうである。こうした真剣さや、大規模でスピーディーなワクチン接種の手法は、大いに学ぶべきだろう。