まったく痛みがなく、副反応も一切ない

筆者が接種を受けた薬局では、2つの小部屋が接種場所になっていた。担当は30代半ばくらいの女性だった。本人確認とアレルギーに関して簡単に聞かれ、「接種するのはオックスフォード大・アストラゼネカのワクチンです」と告げられた後、左の上腕に接種を受けた。まったく痛みがなく、次の瞬間にはもう針が抜かれていた。ワクチンの量は0.5ccで、針も細く、痛点に触れなかったものと思われる。

筆者が接種を受けた近所の薬局とその前で働くボランティアの人々
筆者撮影
筆者が接種を受けた近所の薬局とその前で働くボランティアの人々

上着を着て「どこかで15分くらい待つんですか?」と聞くと「もう帰っていいですよ。アストラゼネカはファイザーと違って、アレルギー反応はほとんどないので」と言われた。接種記録が書かれた名刺大のカードをもらい、裏口から薬局を出ると、最後のチェックの担当者がいて、本人確認、接種カードの受領、2回目の予約日などを確認された。手続きはいたってスムーズで、周到に用意されていると感じた。その後1週間たったが、副反応は一切ない。

英国ではすでに約1100万人がアストラゼネカのワクチン接種を受けているが、アレルギーや血栓の危険を高めるといったデータはなく、筆者の周りにも重い副反応が起きた人はいない。

なぜこんなにも速く、方針もぶれないのか

英国がこれほどまでにワクチン接種で先行しているのは、初動が速く、政府の方針もぶれなかったからだ。

英国の保健省は、英国内で最初の新型コロナ感染者が確認されるよりも前に、大規模なワクチン接種計画の立案に着手し、オックスフォード大学の科学者たちもWHOが新型コロナに「Covid-19」の名前をつける以前に、ワクチン開発の議論を始めていた。

マット・ハンコック保健相(42歳)がワクチンの調達に当たって何よりも重視したのは、価格ではなく、世界のどこよりも早く、英国民に十分に行き渡る量のワクチンを確保し、2020年中に大規模な接種を開始することだった。英「スカイ・ニュース」によると、同保健相は、感染症の脅威を描いた米映画『コンテイジョン』(2011年公開)の中で、有効なワクチンが見つかったにもかかわらず、量が足りず、接種の順番が誕生日にもとづく抽選制になるというストーリーが頭に刷り込まれていて、絶対にあのような状況は回避すると決意していたという。

ハンコック氏は、昨年3月から4月にかけ、オックスフォード大学が医薬品大手の米国メルク社と共同開発の合意を結ぼうとしたとき、契約の中に英国への優先供給の条項がなく、トランプ前大統領が出荷を停止する可能性も懸念し、合意を認めず、英・スウェーデン資本のアストラゼネカ社(本社・英ケンブリッジ)との提携に変えさせた。