フランスやドイツがAZワクチンの有効性にあらぬ疑念を唱えているのは、EUを離脱したイギリスでワクチン開発や接種が順調に進んでいることを快く思っていないからだ。EU離脱は失敗に終わらなければならない、そうでなければEU懐疑派のポピュリストが勢いづく――という懸念が背後に見え隠れする。
イギリスは女王が「接種しても大丈夫だったわ」
しかし、その代償は大きい。英紙ガーディアンの集計によると、EU27カ国に配布された613万4707回分のAZワクチンのうち484万9752回分が使用されずに山積みになっている。
マクロン大統領はG7で「ワクチンの最大5%を途上国に回せ」と呼びかける前に、自らがホコリをかぶらせる原因を作ってしまったAZワクチンを途上国に回した方がいいのではないか。43歳のマクロン大統領は「もしAZワクチンを接種する機会が与えられたら、もちろん接種する」と国内向けにとりなしてみたものの、時すでに遅しだった。
AZワクチンは2月15日、世界保健機関(WHO)でもすべての成人に対する緊急使用が認められた。2回の接種間隔は8~12週間という。安価で配布が簡単なAZワクチンは途上国でも展開しやすい。フランスやドイツの主張は自分でEUの評判を落としたようなものだ。
仏世論調査会社Ipsosの15カ国調査によると、コロナワクチン未接種者に「ワクチンを接種するか」と質問したところ、「接種する」という回答はイギリスでは89%にのぼったのに対して、フランスは57%だった。ドイツも68%と低い。
ワクチンを積極的に受けようという回答が多い国は基本的にワクチンの集団予防接種による「集団免疫」の獲得を目指している。
イギリスでは学校教育や原則無償で医療を提供するNHS(国民医療サービス)を通じてワクチンを接種するメリットとデメリットの教育・啓蒙活動が徹底されている。高齢のエリザベス女王(94)とフィリップ殿下(99)も1月中に1回目の接種を終えた。
フィリップ殿下は他の感染症で現在、入院中だが、エリザベス女王は2月25日、テレビ電話会議システムを利用したイベントに参加して「接種しても大丈夫だったわ。ワクチン接種の機会を与えられたら他の人のことも考えて接種してね」とイギリスと英連邦加盟国の市民に向けて呼びかけた。
日本のワクチンに対する考え方はイギリスよりもフランスやドイツに近い。フランスやドイツと同じ轍を踏まないよう菅政権には思慮深いワクチン政策が求められている。