人工知能(AI)に話しかけると、ちぐはぐな回答が返ってくることがある。マツコ・デラックスさんを模した「マツコロイド」の開発に関わった東中竜一郎氏は、マツコさんとロボットが初めて雑談をしたとき、会話が成立せずショックを受けたという。なぜ、AIとの雑談はうまくいかないのか――。

※本稿は、東中竜一郎『AIの雑談力』(角川新書)の一部を再編集したものです。

優秀なデジタルコンテンツの制作者を表彰する「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー’15/第21回AMDアワード」の先端科学技術賞を受賞した等身大アンドロイド「マツコロイド」(左)。右は高市早苗総務相=14日、東京都港区
写真=時事通信フォト
優秀なデジタルコンテンツの制作者を表彰する「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー’15/第21回AMDアワード」の先端科学技術賞を受賞した等身大アンドロイド「マツコロイド」(左)。右は高市早苗総務相=2016年03月14日、東京都港区

何度もダメ出しの末、ようやく対話が実現

マツコロイドとは、マツコ・デラックスさんを模したアンドロイド(人型ロボット)です。リアルな人型のアンドロイド研究で有名な大阪大学の石黒浩先生が監修したものです。マツコロイドは、「マツコとマツコ」という日本テレビの番組で、マツコ・デラックスさんと掛け合いをしながら番組を進行していました。

番組を見ていた人の中には、マツコロイドが完全自律で動いていると思っていた人もいるかもしれませんが、現状の技術は番組の進行ができるほどにはなっていません。マツコロイドはもともと遠隔操作のロボットです。後ろに人がいてモーションを操作していました。会話はモノマネ芸人のホリさんが担当です。

そんな中、縁があって、マツコロイドの対話部分を自動化できないかとの話を石黒先生からいただきました。面白そうなのでぜひやってみようということに。私が当時所属していたNTTの雑談AIの構成を用い、話し方やキャラクタデータベースをマツコ・デラックスさんのものに設定。テレビ局の方に、「テレビクオリティ」に満たないという理由で何度もダメ出しをされながら、チューニングを繰り返し、半年以上かけてやっとOKが出ました。「マツコとマツコ」のほぼ最終回のころです。

「何を食べたの?」出だしは順調だったが…

スタジオに入って、マツコロイド本体をセットアップして、雑談AIとつなぎました。具体的には、マイクの音声がPCに入るようにし、PCから出力される合成音声がスタジオ内の大きなスピーカーから出るように設定しました。

しばらくして、番組収録が始まりました。マツコさんが登場。雑談AIの搭載されたマツコロイドと話すコーナーになりました。会場にはお客さんが何十人も入っていて、ぶっつけ本番ということもあり、かなり緊張したことを覚えています。その時のマツコさんとマツコロイドの対話は以下の通りです。

【マツコ】こんばんは
マツコロイド】どうもですぅ
マツコ】そればっかりね

【マツコロイド】早速だけど、今晩は何を食べたのかしら?
マツコ】お弁当
マツコロイド】お弁当は旦那が作るのです
マツコ】うらやましいわ

【マツコロイド】夫婦は似てくるって本当なの?
マツコ】本当だと思う
マツコロイド】同じ趣味を持つと老後も夫婦円満でいられるだろうね