中国企業によるClubhouseへの検閲

気になるのが中国網絡安全法の37条に書かれている「中国国内で収集と生産した個人情報と重要データは中国国内に残さなければならない」という内容だ。

Clubhouseは中国「Agora.io(声網)」社の音声サービスを使っており、Clubhouseの人気沸騰とともにAgora.ioの株価も上昇した。その一方で、Agora.io社の中国サーバーを経由しているならば、Clubhouseの音声データを中国のサイバーセキュリティ法の下に保管し、検閲することが可能になるというわけだ。米スタンフォード大学の研究機関であるスタンフォード大学インターネット観測所も、Agoraが音声にアクセスし保管される可能性を危惧する発表をしている。

余談だが、中国は多くの外国サイトやサービスを遮断してはいるが、一方で遮断しているサイトやサービスを利用する中国人は少なくない。

買い物情報やゲームやアニメなど、さまざまなカジュアルな用途でも壁越えツールは活用されている。ただし、共産党大会などの政治イベントには手綱を締め遮断が強化されて普段よりもアクセスしにくくなっている。また、壁越えサービスの販売配布や、ポルノコンテンツを壁越えサービスを利用して配布している中国人がしばしば逮捕されている。

リアルな実情としては越えにくい壁を用意した上で、海外サイト・サービスの行き過ぎない利用を黙認しているといえるだろう。

相互監視を強化するための“アメとムチ”

もうひとつの中国国内の書き込みのチェックとして、近年は検閲体制が強化され、自動フィルタリングや検閲スタッフによる検閲にとどまらず、ユーザーによる密告体制までできている。

密告のシステム化は、SNSごとに独自のスコアリングシステムを導入することで実現した。反体制やポルノや暴力などの規則違反や、低俗だとする他ユーザーからの通報により点数が下がるというものだ。

「ムチ」の一方で、SNSをつまらなくしないように、オリジナルコメントやオリジナルの内容を書き込むと点数が上がり、点数が上がることで書き込み機能が豊富になるという「アメ」も用意。このシステムを導入したSNSのひとつで、ツイッターのようなサービスの「微博(Weibo)」では、プロパガンダ「社会主義核心価値観」とともに、一日一善のハッシュタグを書き込み、点数を上げようとしているアカウントが確認できる。

結局のところ、Clubhouseは遅かれ早かれ中国で遮断されるか、監視される運命にあった。ただし当局の技術的対応は想像以上であり、また中国産の高性能なネットテクノロジーによって、当局に検閲されかねないというリスクが新たに露呈した。今後も中国のネットテクノロジーの発展とともに、検閲能力も強化されることになるだろう。

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