正しい情報を基にリスクを理解する
また、医療従事者や研究者のなかで、ワクチン忌避に結びつくいわゆる「誤った情報」「デマ」が流れにくかったのは大きい。科学的に不正確な情報を発しないというだけでなく、間違った情報を間違ったと判定できない時点で科学者としての能力を疑われるであろう。
ニューヨーク州立大学のグループによる11月下旬~12月上旬における調査では(Shaw et al., Clin Infect Dis, 2021)、医師や研究者のワクチン接種を希望した率は80%と非常に高い。科学的な背景を十分理解し、リスクとベネフィットを天秤にかけることができたからであろう。
パンデミック対応には速度が重要という観点から、学術的情報の共有が速まり、論文の無料アクセス、プレプリントサーバーの活用、オンラインのミーティングでの未発表データのシェアなどが広く進んだほか、モデルナやジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの開発や治験に直接関わっていたハーバード大学関連の研究者を交えた活発な情報交換が春先から行われていたことなども理解を促進したと考えられる。
私は接種を希望したが、個人的にはリスクとベネフィットを天秤にかけたにすぎない。
コロナウイルス感染症は肺炎が起こり、重症の急性呼吸不全を起こすだけではなく、体内のさまざまな細胞に感染し、PCRが陰性になった後も呼吸困難感など呼吸器系の症状が持続する。
このほか、うつなどの中枢神経系障害、熱がないのに持続する全身倦怠感、脱毛などの皮膚疾患、心筋炎などの循環器系への多様な長期的影響があることが知られてきている。
実際に感染した職員がこのような症状に苦しんでいるという話も伝え聞く。ワクチンのまれな副反応よりコロナに感染することを避けたいという一言に尽きる。
トップダウンの強力なオペレーション
コロナワクチン接種は、各自治体や国だけでなく、世界全体で足並みをそろえないと効果が上がらない。ワクチンの接種管理は連邦政府から分配後各州に委ねられるが、2月6日現在、先行している州が11%ほどの接種率なのに対し、7%台の州もあり格差が見られる。
ワクチン接種は超低温保存など新規薬剤取り扱いの難しさもあるので、州に適切なガイドラインを示し、資金や人材、PPEなどのリソースを提供することが必須である。トランプ前政権はワクチンの戦略的生産、配分などを通じて各州に必要なリソースを与えるリーダーシップに欠け、CDCなどにいる連邦政府の有能な公衆衛生の専門家が有効に活用できておらず失策があった。
時間やリソースが限られている中、ハーバード大学関連病院で行われたトップダウンの強固なオペレーションは1つのモデルと言えるかもしれない。
コロナウイルスワクチンは今後毎年接種になるかもしれないとの予想もあり、システムづくりに注力することは今後への投資にもなるであろう。私は、ワクチン接種推進派でも反対派でもないが、以上、これからワクチン接種をされる皆様の参考になれば幸いである。