通常のインフルエンザワクチンの0.5%程度の速さになると、50%以上の人が接種を完了すると初めて35%ほど感染が抑えられるとの試算である。つまり、いくら効果が高いワクチンができても、一部の人しか接種していないか、または接種のスピードがゆっくりでは効果が全く期待できないことになる。
ワクチンの生産や接種の遅れ、またワクチン忌避はワクチンの効果を顕著に阻害する。感染が収束しないと、変異株の出現などで感染が断ち切れないため、パンデミックは収束しない。つまり、ワクチン接種は全世界で一斉に取り組まないと解決しない問題である。ちなみに私は3年前までMGHの感染症科に所属していたが、その時の主任を務めていたのがウォレンスキー先生で、私もキャリア形成などで直接お世話になっていた。
徹底した情報公開と便乗効果
ワクチン接種を推奨するのにもっとも効果的な方法はどんなものであろうか?
ペンシルバニア大学の論文(Hershey et al., Organ Behav Hum Decis Process, 1994)によると、人々のワクチン接種を決める最も重要な要素は、Bandwagoning(バンドワゴン効果)、つまり周りの人がそうしているなら私も受けようという便乗心理である。
これを踏まえて、アメリカではワクチンの啓蒙活動が盛んであり、なるべく多くの人に接種を呼びかけることでさらに接種の輪を広げる努力がされている。
10~11月ごろには私の周囲でも、肩書や専門分野、人種や文化的背景を問わずかなり多かったワクチン懐疑論であるが、1月に入り接種者が増えてきた段階でワクチン懐疑論は急速に消え失せていった。
頻回のメールや対話集会の開催、電話やメールにての質問への徹底した対応を通して情報がシェアされ、周囲の同僚が接種の経験を語り始めた結果、私の同僚の接種率も1月末にはほぼ100%になった。
カイザー・ファミリー財団の調査では9月の時点でワクチン接種を望むアメリカ人は63%ほどであったが、12月の時点で71%を超え、現在はこれがさらに上昇していると言われている。
コロナウイルスのパンデミックで世界の全ての人の生活は多かれ少なかれ影響を受けているが、特にアメリカの損害は大きい。移動、集合の不自由、スポーツイベントのキャンセル、バーの閉鎖など1年にわたる規制に非常に疲れており、一刻も早くこの状況から脱却したいという願いも強い。
病院内の感染対策やPPEの供給は比較的充実しており、医療従事者自体の感染は非常に少なかったものの、患者のケアを直接担当する医療従事者は感染の現実に触れ、恐怖心があったのも間違いないであろう。が、「もう何人接種した」というメッセージは、接種しないという人がマイノリティになればなるほど効果があったように思う。