まもなく、医療従事者を対象に新型コロナウイルスの接種が始まります。接種を前にして知っておきたい情報、思考の手がかりになる本はどれか。記者、ジャーナリストとして50年に及び医療の現場を見てきた田辺功さんが選んだ3冊とは——。
Covid-19 コロナウイルスワクチン
写真=iStock.com/MarsBars
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集団免疫獲得までは時間がかかる

昨年、そして今年と、世の中は新型コロナウイルスが全盛です。テレビや新聞のニュースといえば感染者数の推移と医療機関の過酷な態勢、そして自粛要請ばかりです。一体これがいつまで続くのか、どんな形で解決するのか、だれもが不安に感じているに違いありません。

1月下旬、新宿の書店に出かけてみると「コロナ本コーナー」には50冊も並んでいました。ワクチンについて考える際に参考になりそうな本は結構ありましたが、私がお勧めするのは次の3冊です。

新型コロナウイルスを制圧する

河岡義裕著、河合香織・聞き手
文藝春秋/1200円+税
20年7月刊

獣医学者の河岡さんは東京大学医科学研究所国際研究センター長で、米ウイスコンシン大学教授も兼務、日米で実際に新型コロナワクチンの開発研究もされています。この本はノンフィクション作家の河合さんが河岡さんにいろいろと聞き、3章にまとめました。

河岡義裕著、河合香織・聞き手『新型コロナウイルスを制圧する』(文藝春秋)
河岡義裕著、河合香織・聞き手『新型コロナウイルスを制圧する』(文藝春秋)

第1章・新型コロナウイルス研究最前線、はワクチンと治療薬がテーマです。欧米で臨床使用が始まっているワクチンはコロナウイルスの突起を作る遺伝子ワクチンで、人間の細胞に入ると細胞は突起への抗体を作り、ウイルス感染を防ぎます。心配なのは少数にとはいえ起こる副反応です。ワクチン接種後に感染すると重症化するADE(抗体依存性感染増強)は危険です。流行を乗り切るには治療薬かワクチンしかないわけですが、ワクチンは病気を起こさないことが条件で、慎重であるべきと河岡さんは強調します。

コロナはいつ収束するのでしょうか。河岡さんは時期を明示していませんが、抗ウイルス薬も出て、断続的な流行が2、3年ほど続き、その間に有効なワクチンが開発されるものの集団免疫獲得までは時間がかかりそうとの予測です。

第2章・ウイルスとともに生きる、は関連の話題です。米国のトランプ・前大統領は中国・武漢のウイルス研究所が新型コロナウイルスを作ったと攻撃しました。もともとコウモリにいたウイルスが人間に感染、強毒化したものですが、人工的に変異させると多くは弱毒化することから、河岡さんは当初から否定的でした。私が驚いたのは流行の初期に、その河岡さんがウイルスを作った張本人だとネットに書き込まれ、脅迫や嫌がらせメールがいくつも届いたと書かれていたことです。いやあそんな事件、初めて知りました。