「世代を超えて連帯を」
7月4日には、メルケル首相は年配者に向けたビデオメッセージも寄せた。一人暮らしや老人ホームの年配者は、コロナ禍により家族の訪問が制限されて寂しい思いをしたり、介護者が来られないために外出できない人が出て問題となっていた。
「お年寄りに感謝の念を表すための、簡単で効果的な方法があります。それはコロナの規則を守ることです。間隔をとり、衛生に気を配り、マスクをすること。(中略)例えばスーパーの通路でお年寄りに道を空けることです。マスクを顎でなく、きちんと着用すること。それによりコロナ禍でもお年寄りが、社会生活をともに営むことができます」
メルケル首相は、お年寄りも若者も一人ひとりが社会の一員だと説き、若者と年配者がともにあり、互いに必要としていること、また世代を超えてともにいることがすべての人にとってよい生活なのだと話した。そして、実際にドイツでは、運動できなくなったスポーツクラブの若者たちがお年寄りの買い物を代行するネットワークを作ったり、電話などで声かけをする活動が街のあちこちで見られた。
「コロナは嘘だ」噴出する不満
学校は5月から順次再開したが、夏休み前まではクラスを半分に分け、1日置きまたは週替わりに学校に通うのが一般的だった。ただ、夏休み明けに新学年が始まり、コロナ以前と同じような通常授業になると、他者にウイルスがうつりやすい状況となり、私の周りでも夏休み明けから、感染者が出たという話をぽつぽつと聞くようになった。
知り合いの中には担任教諭の感染が発覚し、クラス全員を検査したら息子の感染が発覚。家族全員で2週間の自宅隔離となり、買い物も犬の散歩も禁止された人もいる。
9月から10月にかけてはまた感染者が増え始め、9月初めの感染者は約25万人だったが、10月初めには30万人に迫り、死者も約9500人となった。夏休みには国内はもちろん、フランスやスペインなど隣国に旅行に出かけた人も少なからずいた。
また、コロナ対策が長引くにつれ、これらの厳しい措置を不服として各地で反対運動も起こるようになった。
極右政党「ドイツのための選択肢」など現政権政策全般に反対する政党や、「店の経営が苦しい」「失業した」などコロナ政策のために実際的な不利益を被った人をはじめ、副作用があるとワクチン接種に反対するグループ、「コロナは嘘だ」とコロナウイルスの存在そのものを否定するグループ、「ビル・ゲイツがワクチンとともに、チップを皮膚に埋め込もうとしている」などの陰謀説を唱える人たち、「マスク着用義務は基本的人権の侵害」と訴える人など、さまざまな人たちの集合体により、各地で数千人から数万人規模でコロナ対策反対デモが開かれている。
私もハノーファーで見たが、親子でのんびりと散歩するように参加している人もいれば、接触制限措置を「自由を侵害し、民主主義に反する」「旧東ドイツと同じだ」と過激な主張も散見された。
デモの中で衝撃的だったのは8月29日、ベルリンでコロナ対策についての反対デモをする人たちが、連邦議会議事堂の正面玄関を占拠し、極右勢力が黒白赤の3色からなる「帝国旗」と呼ばれるナチス時代に使われていた旗を翻したことである。