感情を上手に吐き出すことが「暴走」を避けるコツ
あおり運転に触れましたが、これは、近年社会的に大きくクローズアップされるようになった問題です。ほかの車の運転に腹を立て、しつような嫌がらせをするわけです。
私も運転中に、ほかの車に腹を立てることはあります。1人で運転していたなら、車の中で怒鳴ります。「このボケ!」なんて。
でも怒りの感情に支配されて、あおり運転を始めることはありません。それどころか私は、クラクションを鳴らすこともしません。
暴言を吐くのも、車内に自分しかいないときだけ。ほかに乗っている人がいたら、声には出さず心の中で叫ぶようにしています。
私は感情が高ぶっても、感情に振り回されて失敗することは少ないと思います。というのも、日ごろから感情をうまく吐き出しているからです。逆にいうと、あおり運転をする人は日ごろから感情を押し殺しているために、そのたまった気持ちが止めようのない怒りに転じてしまうのでしょう。
新型コロナがもたらした「感情の危機」
新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、専門家会議では家にこもることを推奨しました。感染症の専門家が考えるのは、1にも2にも感染の拡大を防ぐことです。巣ごもりは、そのための最良の方法でしょう。
でも精神科医として私は、これは困った状況になった、と感じました。
というのも、極力他人と会わない暮らしを続けると、ストレスを発散できません。日ごろ行っているように、感情をうまく吐き出すことができなくなるからです。家にこもることで、感情的になってしまうわけです。
上手に怒りの感情をコントロールできない人は、「自粛警察」「マスク警察」になってしまいがちです。
「正しさ病」の行きつく先
そういう行動を取る人たちは、自分が絶対的に正しいと考えるのです。コロナ禍の中での生活とは、「かくあるべし」と。その「正しさ」に反して、きちんと自粛生活を送らない人、マスクをつけない人のことを許せなくなります。
ものごとを「白」と「黒」の2つでしかとらえることができなくなってしまっているのです。そのため激しい怒りを感じ、制裁を加えないと済まなくなるわけです。
不安感情もまた、巣ごもり生活を強いられたことで増大していきます。
「このまま失業したらどうなるんだろう」
「オレはダメな人間なんじゃないだろうか」
巣ごもりでアルコールに依存する人が増えたばかりではありません。不安がどんどん増大し、最悪、自殺を選ぶ人も出てきました。現実問題として、2020年10月には、対前年同月比で自殺者が約18%も増えてしまいました。