「特許でひと山当てて10億円の貯えがある」
・谷崎さん(OP、男性・60代後半)
派遣社員ばかりの職場では、互いの過去がわからないのをいいことに、笑ってしまうような虚勢を張る人物に時々出会います。彼はその典型でした。
配属されるなり会う人ごとに、
「特許でひと山当てて10億円の貯えがある。悠々自適の生活なんだが、カミさんに『このままだとあんたは、世間ってものをずっと知らないままになる』と尻を叩かれたもんだから、社会勉強で働きに来た」
という意味のことを関西弁でかましてくるのです。しかしでっぷり太った体にまとっている服はどれもヨレヨレで、白髪頭はぼさぼさ。話す内容はまったく知性というものを感じさせず、とてもじゃないですが特許で財を成した資産家には思えません。
それだけならただこちらが距離を置いていればいいだけのことなのですが、この御老体がはた迷惑なのは、何をやるにも我流でマニュアルや管理者の指示通りにやれない上、とにかく粗野なのです。
問い合わせに対して、資料にも当たらずうろ覚えの知識で適当に答えたり、誤案内をしてしまったり、勝手に何の根拠もない個人的意見を付け加えるなどは日常茶飯事。文章力もおぼつかないようで、受電記録をデータベースに残す際、大事な根幹部分が抜けていることがほとんどだそうです。しかも、それらを毎日のようにLDやSVに注意されてもどこ吹く風でまた同じミスを繰り返すだけでなく、一日に何度も落ち度が続いて管理者に強めに注意されたりすると、逆ギレして怒鳴り返す始末。その日の職場の雰囲気まで悪くなってしまいます。
「いえ、私はあなたを馬鹿にしたりはしておりませんよ」
さらに、ものの言い方が根本的に無礼で尊大なので、入電者をしょっちゅう怒らせてしまうのです。その上、電話の向こうの相手にオペレーターとしての言葉遣いを咎められると、
「いえ、私はあなたを馬鹿にしたりはしておりませんよ」
などと平然と反論したりするものだから火に油を注ぐ形になり、結局は対応交替した管理者が電話越しに平身低頭する羽目になってしまいます。
オペレーターも管理者も匙を投げていた人物でしたが、彼も派遣会社からクビを切られることなく、9月末の契約満了まで勤め上げたのでした。夫人の助言のような(それが真実なら、ですが)、世間を知る機会になったとはとうてい思えませんが……。
こうした人たちが、事業者を救済するための国家事業のコールセンターで、入電者からの質問に答えたり、オペレーターに指示を与えたりしていたのです。
新しいコールセンターができたこともあり、旧センターは9月以降、既存の申請者専用の窓口となりました。10月からは規模も縮小され、一部のOPや管理者だけが契約期間を延長して残留しました。
その中には、今回挙げたスタッフたちの中の数人がまだ名を連ねていて、引き続き日々の業務に当たっているのだそうです。