米大統領選挙は「安倍ロス」の補完行為であり求償作業だった
米大統領の本選の段階で菅政権は発足していたわけだが、これといったイデオロギーは無く、反中政策もない。保守層やネット右翼は、口だけでも反中を唱えた第2次安倍政権の初期を待望する――。その存在こそ、トランプ政権であった。第2次安倍政権の崩壊から約2カ月強をして起こった米大統領選挙は、いわば日本の保守層やネット右翼の中に厳然として存在する「安倍ロス」の補完行為であり、求償作業であった。
第2次安倍政権が去ってからの数カ月、保守派やネット右翼は、菅内閣に表面的な支持をよせながらも、内心では「安倍以上の反中・タカ派政策は無い」と見切りをつけていたように思う。そうした中で、彼らの唯一の灯は、世界の超大国として堂々と「反中」を公言するトランプであった。
日本の保守派、ネット右翼によるトランプ思慕は、明らかに第2次安倍政権が20年米大統領選挙の数カ月前に崩壊したことの「喪失感」をもとに形成された感情である。「安倍政権の継承」を謳う菅内閣を表面上支持しつつも、保守派の好むイデオロギーを発しない菅内閣では不満と考えた保守層やネット右翼が、全ての期待をトランプに仮託した結果ともいえる。保守派やネット右翼は、常に勧善懲悪の世界――、つまりは「○○が悪く、我々は純朴な被害者である」という図式を求める。それを具現化したのがトランプであり、トランプ政権であった。
「安倍ロス」に表象される「安倍」という最大の精神的支柱を失った今、日本の保守派やネット右翼は他国の国家元首であるにもかかわらずトランプに縋っている。なんという情けない事大主義だろうか。強き者に縋り、そして自分の求める疑問の回答に近い返答を返してくれる権力者としてのトランプへの思慕は、トランプが大統領職を失してもなお続くことであろう。