4~5年前はネット右翼ですら「トランプよりはヒラリー」だった
ネット右翼とは、ネット空間で右傾的な言説を述べるもの、と思われがちだが事実はそうではない。ネット右翼とは彼らの上位にいる所謂「保守系言論人」の無批判なファン層である。ネット右翼には読書習慣が少なく、体系的な知識が乏しいため、上位に存在する保守系言論人の言説をコピー・ペーストしてネット上にそのままオウム返しのように展開する。これがネット右翼と保守の関係である。
この関係を踏まえたうえで、時間を16年にさかのぼってみよう。8年続いたオバマ政権の後継を争うこの時の米大統領選挙では、米民主党からヒラリー、共和党からトランプが出馬した。しかし、トランプは共和党予備選の段階から「在日米軍駐留経費の対日全額要求」や「日米貿易の不均衡是正」など、共和党候補にしては過酷な対日政策を公言したので、日本の保守層はトランプに戦々恐々とした。
この時期「米大統領にはトランプよりもヒラリーを望む」と自著〔『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』(ダイヤモンド社)〕に公言したのが保守系言論人の重鎮である櫻井よし子氏である。おおむね保守系言論人がこのような調子だったから、それに追従するネット右翼も「トランプよりはヒラリーの方がまだマシ」という意見に寡占されていた。事程左様に、実は今からほんの4~5年前まで、日本の保守層にもネット右翼にも、ほとんどと言ってよいほどトランプ支持者などいなかったのである。
しかし大方の予想を裏切ってトランプが大統領になると、当時の安倍政権はトランプに急接近した。フロリダの別荘でのゴルフ外交に始まり、矢継ぎ早の首脳会談で「シンゾー・トランプ」関係を築いた。欧州やカナダ等から嫌悪されるトランプに対し、ほぼ唯一追従したのが安倍外交であった。
トランプの反中姿勢に歓喜した日本の保守派とネット右翼
このような中、2017~18年頃から本格的に「米中対立」が始まると、トランプ政権は中国への有形無形の対立姿勢を明確にした。実際、こういったトランプの反中姿勢は、疲弊した米国中部・五大湖周辺の製造業地帯に住む白人有権者へのアピールだったわけだが、最も歓喜したのが日本の保守派とネット右翼である。
12年12月に内閣総理大臣に就任する安倍晋三は、その3カ月前の総裁選(VS石破茂)の際、極めてタカ派的な発言をして保守層の歓心を買った。曰く韓国に対しては「“竹島の日”式典の政府主催」、中国に対しては「尖閣諸島に公務員常駐を検討」の2つである。この安倍の構想は、12年末の解散総選挙における自民党政策集にも明記されたが、いざ13年から第2次安倍内閣が本格的にスタートすると、総裁選時に公言されたこれらの激しい対韓・対中政策は無かったことにされ、いつの間にか自民党の政策集からも削除された。
しかし13年12月に安倍が靖国に参拝(在任中はこれ一度きりとなった)すると、いよいよ「(第1次安倍に次ぐ)本格保守政権の復活」と保守界隈は捉え、安倍支持を極めて盤石にし、対韓・対中政策で実際にはそこまで過激な措置を取らない理由を「現実主義」とか「公明党への配慮」とか「マス“ゴミ”のせい」と責任転嫁して、安倍翼賛で固めるに至った。