「第2次安倍政権の上位互換」のように捉えられたトランプ政権

だが、現実の第2次安倍政権はどうであったのかというと、その後反故ほごにされたとはいえ朴槿恵政権(当時)との慰安婦合意を実行し、保守派が最も禁忌とする「慰安婦の存在そのもの」を認めるに至り(歴史的には当然の史実を認めたにぎないが)、尖閣諸島が民主党政権時代の12年9月に国有化されて以来、なんら地上構造物を増設していないばかりか、中国公船の領海や接続水域への侵入は激増する事態となった。

このような保守派やネット右翼が「理想」とする第2次安倍政権と、「実際」の第2次安倍政権の間にはかなりの隔たりがあり、このギャップは、実に第2次安倍政権の7年8カ月間、保守派とネット右翼にとって地下にまったマグマのようにフラストレーションとして蓄積されることになるのだった。

そこに彗星すいせいの如く登場してきたのが、17年から大統領に就任したトランプであった。当初、トランプの発言に戦々恐々としていた保守派は「米中対立」を鮮明化させたトランプをまるで「第2次安倍政権の上位互換」として捉えるようになった。

コロナ禍がトランプ翼賛の決定打に

安倍政権は国内の左派マスコミや公明党への配慮により、内心思っていてもそこまで過激な反中政策を採れない。しかし安倍の本心に代わって堂々と世界に反中を代弁してくれるのがトランプである――という図式に当てはめ、トランプへの思慕ともいえる支持を確立させたのである。しかし実際には、この間、トランプ政権は予備選からの公約ともいえる「在日米軍駐留経費の日本側負担増(8400億円)」を日本政府に要求しているのだが、都合の悪い事実はすべて無視し、トランプ翼賛は急速に固まっていった。

決定打となったのは、20年初頭から世界に拡散したパンデミック・コロナ禍である。その震源地は中国・武漢とされるのが一般的(諸説あり)だが、安倍は対中防疫対策こそ後手ながら行ったものの、その疫病の諸因は中国にある、等の政治的批判は一切行っていない。しかしトランプ政権は、コロナ禍がすわパンデミックになるや、その発生源である中国を批判し、「武漢の研究所からコロナウイルスが流失した証拠をつかんでいる」などの陰謀論を公に発して、疫病という自然現象の責任を中国にこすり付ける見解を繰り返した。