本当に開催できると考えているのなら正気の沙汰ではない

菅首相も小池都知事も「東京大会を人類がコロナに打ち勝った証しにしたい」と言う。しかし、世界の感染者数はいまだ爆発的に増え続けているし、コロナに打ち勝った証しになるような行動も取っていない。日本に限らずあらゆる国で「人類がコロナに打ち勝った」と胸を張って言えるような状況は報告されてはいない。国際オリンピック委員会(IOC)は緊急事態宣言の再発令を受けて「日本の当局とその対策に全幅の信頼を寄せている」とコメントしているが、東京都が発表している安全対策は成果が上がっておらず、「竹槍で本土防衛せよ」と言っているに等しい。これで本当に開催できると考えているのなら正気の沙汰ではない。

開催の可否を決めるのはIOCだが開催都市は東京だ。菅首相は日本のリーダーとして「我々は自信を持って国民の安全、ゲストの安全、アスリートの安全を担保できる状況にない。従ってこれは辞退せざるをえない」と東京都に迫るくらいの覚悟を示すべきだ。少なくとも、「いついつまでにこの条件をクリアする」という条件を書き出して、その条件が整わない場合には自動的に開催を辞退するという同意を得る。この筋道を決めるのがリーダーの役割というものである。

実際問題、Go Toトラベルの中止と緊急事態宣言の遅れが政権の命取りになる可能性がある。そのうえ、オリンピックを辞退する手順とルールを考えておかないで、なし崩し的に降参するような事態になれば、菅政権はまず持たない。21年9月には自民党総裁選が予定され、衆議院が任期満了を迎える21年10月までには必ず総選挙が実施される。緊急事態宣言に一定の効果が確認されて、ワクチン供給が始まり、オリンピックが開催されたとしても、二階派にハシゴを外された菅首相の延命も難しいだろう。

ポスト菅の有力候補は、前回の総裁選で2位になった岸田文雄前政調会長か、「脱はんこ」などで国民に知名度がある河野太郎行政改革担当大臣あたりか。前回の総裁選で惨敗した石破茂元幹事長は厳しいだろう。「自民党のドン」である二階幹事長との仲を考えると、オリンピックが開催された場合は功労者の小池都知事、あるいは桜を見る会問題を不起訴で乗り切った安倍晋三前首相の再々登板が大穴になるかもしれない。いずれにしても日本丸は未曽有の危機に幽霊船長が舵をとっている、という状況は当分続くだろう。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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