「マスクしてください」とお願いすると「私を疑うのか」と怒る人も

報道では家庭内感染が増えていることも語られていますが、「こうした“緩さ”が感染拡大につながっているような気がします」とSさんはいいます。

鼻孔
写真=iStock.com/Ketpixel
※イラストはイメージです

「今回、濃厚接触者になり、家族や同僚にうつしてはいけないという気持ちになった時、改めて自分が危険な状況下で仕事をしていることを思い知りました。お宅を訪問する時は、常に緊張しています。これはケアマネジャーに限らず、訪問介護ホームヘルパー、訪問看護師、リハビリを担当する理学療法士、作業療法士といったすべての在宅介護サービス担当者が感じていることだと思います」

利用者やその家族がマスクをしていない場合、つけてもらうように頼むことはできないのでしょうか。

「訪問する立場としては言いづらいものなんです。人には各々独自の考えや家のルールがありますし、自分のホームだという意識もある。マスクをしてくださいなんて言ったら、『私を疑っているのか』と怒り出しそうな方もいますしね」

介護事業所のなかには個包装のマスクを持参し、つけてもらうよう頼むケースもあるといいます。

「それにしても『ウチの事業所の規則になっており、上から厳しく言われていますので』というふうに言わないと、なかなかつけてもらえないそうです。また、認知症の方ですと、そういう言い方をしても理解してもらえないことがあります」

もし自分も感染しクラスターが起きたら介護事務所は閉鎖された

自身は感染予防に細心の注意を払ったうえ訪問のたびに感染に怯え、さまざまな気を遣っているのが在宅介護最前線の現実なのだそうです。

「私は濃厚接触したものの幸い陰性でしたが、それでも2週間自宅待機となり仕事を休みました。もし感染していたら2週間では済みません。また、それがきっかけで事業所にクラスターが起きたら担当する介護サービスは止まってしまいますし、経営は成り立ちません。ホームヘルパーをはじめ介護業種の多くが人手不足ですし、それらが連鎖したら介護難民が続出するでしょう」

感染拡大で医療崩壊の危機と言われていますが、介護も崩壊寸前の状況といえるのです。

「厚生労働省やその他行政機関、またメディアなどでも、さまざまな感染予防策を訴えています。それによって外出時にはほとんどの方がマスクをするようになった。でも、家庭内でマスクをするマナーはまだまだ浸透していません。家族間はともかく、第三者が訪問した時はマスク着用を徹底することもアナウンスしてほしいですね」

家でもマスクをしてもらえるかどうか。小さなことに思えますが、これが在宅介護のサービス提供者すべてが思っている悲痛な叫びなのです。