セックスレスは「女として終わっている」という根拠のようだった
2人目の子供を妊娠するも、病院で障害を持つ可能性があると診断された。
「母に『中絶しなさい』と言われ、自分の考えも言えないまま従いました。中絶した後、この選択をすべきだったのか、身も心もボロボロになって人生を考え直したときに気付いたんです。いままでずっと母親の顔色をうかがって生きてきて、自分の気持ちから逃げてきたって。それは母親だけでなく、夫に対してもでした。私は、夫から愛されたい気持ちから逃げていたんです」
セックスを求めていた本当の理由を悟った山本さん。セックスレスの心情を問うと、ため息交じりにこう語った。
「男性はしたい。女性はそれを受け入れる。そういうイメージがあるので、こっちから求めるのは敗北感がありました。30代って、女性として朽ちていくのを身に染みて感じるんですよ。セックスレスは『女として終わっている』という客観的な根拠を示されているようでした。一番つらかったことは、浮気ができないこと。やろうと思えば、他の人とすることはできる。けれども、それが本質的な解決じゃない。他の人ではなく、夫がいいと自分に言い聞かせていたし、実際そうだと思っていました」
中絶後は、本格的にセックスレスに突入。自分の気持ちが言えないまま悶々と3年の月日が流れた。そんなある日、転機が訪れる。
「昔働いていた職場の男性に誘われて、久しぶりに2人で飲みに行きました。そしたら、帰り際にホテルに誘われたんです。ドキドキしながらも『それはできません』と断ると、『じゃあ、手をつなごう』って言われました。手くらいなら、と了承したら、久しぶりに男性と触れた感覚がよみがえってきたんですよ。そのとき、夫に触れたいとはっきり思いました」
ついに浮気をしたが、虚しさを生むだけだった
触発された山本さんは、勇気を出して夫に思いを伝えることを決心する。何日も推敲を重ねて、こんな手紙を書いた。
「私は結婚してからずっとあなたに言いたいことが言えませんでした。いろいろなことが伝えられず、伝えられないことを積み重ねてしまい、もうどこから伝えて良いのかわからないくらい、積み重ねました。それでも、あなたと生活していくために、少しずつ話していきたいと思っています。あなたときちんと心を通わせたいから。実は、とても恥ずかしくて言いにくいのですが、本当はセックスしたかったのです」
テーブルの置き手紙を読んだ夫は、翌日山本さんを食事に誘い、「あんなこと言わせてごめんね」と謝った。手もつないでくれた。だが、肝心の行為には至らず、数カ月が経過。落胆した山本さんは、今度は面と向かって「したい」と伝えるが、「いいよ」と夫は言ってそのままソファで寝てしまった。もう我慢の限界だった。
「自制してきたけど、もういいかなって。浮気をしました。ここまでしてもセックスをしてくれないので、免罪符を得た気になったんですよ。相手は手をつないだ男性です。でも、浮気してみたところで満たされなかったんです。代わりに他の人でごまかしても、虚しさを生むだけとわかりました。本当に向き合うべきは夫だと思って、男性とは関係を絶ちました」