店舗販売のほうが儲かる理由

この「非合理的な意思決定をさせる」ビジネスの代表例が「来店型保険ショップ」である(参考までに「来店型保険ショップ」の代表である「ほけんの窓口グループ」と、ネットショップの代表格「ライフネット生命保険」のビジネスモデルを比較したのが[図表1]である)。

【図表】ほけんの窓口グループとライフネット生命保険の比較
出所=『金儲けのレシピ』(実業之日本社)

冷静に考えると、保険の良し悪しなどネットで比較すれば一瞬でわかることである。

従って、「来店して人から説明を聞かないとよくわからないよ」という人は、ネットで情報を能動的に調べることのできない「情報弱者」が多数を占めると考えられる。

来店型保険ショップはたいてい、駅前の一等地にあり、それだけで大きく地代家賃がかかる。逆に言うと、その地代家賃をリクープできるような収益性がなければ、大規模展開ができないのである。会社の儲けは当然顧客に費用転嫁されているわけだ。

さて、その費用転嫁をどのように行うか。それは「来店型保険ショップ」では、中立を装いながらも、保険会社からのバックマージンが大きい特定の保険をゴリ押し販売しているのではないか? という疑惑が何度も報道されている。

実際、経営側からすると儲かる保険を売りたいに決まっているわけで、そうなるのは当然の帰結とも言える。

大塚家具のビジネスモデル転換の失敗からも学ぶことができるように、「ネットで売る」ことに対して「リアルで売る」ことの優位性は、「意思決定を捻じ曲げて儲かる商品に誘導することができる」ということなのである。

人に説明してもらわないと満足できない人たち

この背景にあるのは「機能的非識字」である。機能的非識字とは、簡単にいうと「文字自体は読めてもその内容を真に理解するまで読み解くことができない」という状態を指す。

つまり、書いてある文字情報だけで理解するということを、多くの人はできないのだ。言い換えれば、人から説明してもらわないとわからない人は非常に多いのである。

だいたい学校の授業は、先生が黒板に色々書きながら口頭で説明をし、それを理解するというものであるが、冷静に考えれば、普通に教科書を読めば5分程度で終わる話を45分とかかけてやっているのが日本の教育現場である。

「文字だけでは情報を正しく理解できない」というのは、センター試験の国語の平均点が(古文漢文も含まれているものの)、110~120点(6割)ということからもわかる。

日本人の大学進学率は50%程度だから、一応上位50%に入る学歴の人たちですら、センター試験の極めて基本的と思われる問いを4割も間違えているのである。日本人のうち大半の人間が、実は日本語をまともに運用する能力を持っておらず、人から説明してもらわないと理解できないため、「リアルで説明してもらい、わかりやすく噛み砕いてもらって、わかった気になって購入する」というニーズが発生するのだ。