利上げの最高到達点はまた切り下がりそうだ
米国内外で債務が増え続ける中、世界の資本コストを司るFRBが金利を適切な水準にコントロールする難易度は増していると言わざるを得ない。今後、少しでもタカ派色を帯びた情報発信をするだけで市場金利が上がり、累積した債務が実体経済に圧し掛かるはずだ。
途上国に関してはドル建て部分が多いため、米金利上昇に伴うドル高も重荷になる。上述したように、こうした状況になると新興国は通貨防衛的な利上げを行うが、得てして自傷行為にしかならず、実体経済はより委縮する。かかる状況下、FRBは米金利上昇を何らかの手段で抑制せざるを得なくなる。
図表④に示すように、過去20年間、利上げ局面を経るたびにその最高到達点が切り下がってきたという経緯がある。これは米国内外の経済に関し金利が低くないと成長率が確保できない状態、言い換えれば「低金利でなければ儲からない投資機会」が実体経済に増えたということでもある。
それは俗に「潜在成長率が下がった」という状態でもある。実体経済における投資機会が乏しいから株式市場のような場所に資金流入が集中していると考えても良い。恐らく同じような理屈で不動産価格も今後はアップサイドが大きいと筆者は思っている。
今回のコラムで展開してきた以上のような構造的な議論は2021年に相場見通しを考えるにあたっては少々大袈裟なものと思われるかもしれない。しかし、米金利が低位安定する結果、「為替の静寂」と「株の喧騒」が続くという相場観は今やそれほど珍しいものではなく、筆者も基本的に異論はない。
だが、その見通しの原因となる「米金利の低位安定」がなぜ続くのか(続かざるを得ないのか)という点に関して年初の今の段階で理解を深めておくことで、恐らくは今年も何度か到来するだろう相場の乱高下に対して落ち着いた対応ができるのではないかと考え、年初に提示させて頂いた次第である。
読者の方々が2021年の金融市場に立ち向かうにあたって、一助となれば幸いと思う。(2021年1月5日時点の分析)