日本はどの国と手を組むべきか

では、その相手国はどこがいいのか。先のニコンの例ではないが、日本企業との相性がいいのはタイやベトナムで、タイにはすでに3000社の日本企業が進出している。

台湾やシンガポール、香港などを含めたいわゆる「中国人」の場合、転職が国民的スポーツと言われるくらい、何かの技術を習得するとすぐに辞めて、自分で商売を始めてしまう人が多い。

手先が器用で忍耐強い人が多いのはベトナムで、現地を経験した製造業の経営者は皆、感心する。次いでタイもスキルが高い。しかも転職志向が少なく長続きするから、習熟曲線が上がっていく。一眼レフのような精密機械は、デジタル化が進んでいるのにアナログ的な部分が根強く残っているため、製造工程では習熟したスキルを要する。その意味で、教え込むとすぐに辞めてしまう中国人より、タイやベトナムの労働者のほうが日本企業向きだ。

特にタイは政治的には大問題を抱えているが、親日的な仏教国であるうえに国民の気性は激しくない。だから、日本人にはなじみやすい。彼らも日本企業に勤めることを誇りに感じてくれる。中国人の場合には、ホワイトカラーで日本企業に就職したいという人にはお目にかかったことがない。日本企業よりも圧倒的に欧米企業に行きたがるし、地場の企業も優秀な人材は高い給料で採る。ブルーカラーなら、中国系企業より日本企業のほうが給料は断然高いので来たがる人は多いが、それでもやはり辞める人も多い。

ちなみに同じ中国でも南は離職率が高く、旧満州の東北三省は定着率が高い。グレーター上海では田舎に行くほど定着率が上がる傾向がある。国土が広い中国では都市ごとに状況を見なければいけない。例外はあるものの、能力のある人間を長期間雇うのは難しいと心得たほうがいい。

タイは製造業だけでなく、タクシン政権の功績で高速道路や港湾などの社会基盤も格段に整備された。サービス業の直接投資も進んでいる。あまり知られてはいないが医療施設が整ったタイはメディカルツーリズムのメッカで、今やタイの観光収入の10%を占めるほど。バンコクには日本人医師を常駐させて日本人専門にやっている病院が2つもある。

老人介護施設も進んでいて、ドイツやスウェーデン、スイスなどはターミナルケアの施設をつくって運営している。患者1人に介護士3~4人を配置、フルタイムでケアするから非常に満足度が高いと評判だ。

介護士1人に患者5人という日本の絶望的な介護状況とは雲泥の差。日本人の年金受給者なら、そうした介護サービスを受けてもお釣りがくる。そのあたりはタイ政府もよくわかっていて、
「リタイアメントビザ」なる許可証を発行して、年金収入はタイで納税申告しなくてもいい仕組みになっている。

ASEAN(東南アジア諸国連合)の会議がデモで中止になるなどタイ情勢は混沌としている。だが基本的には穏やかな国民性だから決して治安は悪くない。モノづくりからターミナルケアまで、少子高齢化が一層進展する日本社会を補完してくれる国として、タイくらい理想的な相手はいないだろう。

こうしてアジア各国を日本の補完的な地域としてみると、国土としての日本の中で考えることがいかに矛盾に満ちているかわかる。製造業も、サービス業もアジアシフトが進み、今持っている150兆円の外貨準備を神棚に預けるくらい大切にしていかないと、日本の脆弱性が一気に進むだろう。昨年度の貿易赤字は極めて大切な警告、と捉えなくてはならない。

(小川 剛=構成  AP Images=写真)