これでは製薬自体を信じることができなくなる

12日の記者会見で小林広幸社長は「一般的な感覚では間違えないレベルだ。担当者が失念していたとしか考えられない」と頭を下げた。だが、人の命に関わる製薬という業務に「失念」など決してあってはならない。プロとしての自覚に欠ける。私たちは製薬会社を信じ、薬を使っている。これでは製薬自体を信じることができなくなる。

足りないからと補充した爪水虫治療薬の成分と睡眠導入剤の成分は全く違う。しかもそれぞれ見た目の違う容器に入っていた。爪水虫治療薬の成分は高さ1メートルの大きな紙製の容器に、睡眠導入剤の成分は小さな平の缶に保管されていた。

多種多様な薬が並ぶ薬局の棚
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開発費と時間のかかる先発薬ではなく、安い費用で手間を掛けずに製造できる後発薬を扱っているという安易な意識が、小林化工になかったのか。費用を抑えて利益だけを追求しようとするところはどうだろうか。小林化工は毎年のように自主回収を繰り返している。自主回収まで至らずに内密に処理したケースはなかったのか。経営トップが現場に無理難題を求めてはいないか。社内の風通しはどうか。ミスを表に出してその原因を探ることができる社風はあるのか。

一般的に医療ミスはその病院に内在する問題が強く作用して起こることが多い。製薬ミスも同じだ。小林化工には、考えられない事態を招く、組織的かつ構造的な問題が潜んでいるように思えてならない。

サリドマイド、キノホルム…製薬の歴史は深刻な薬害の歴史だ

製薬の歴史は薬害の歴史でもある。服用した妊婦から手足の短い子供が生まれた睡眠薬「サリドマイド」。下半身が麻痺するスモン神経症を招いた胃腸薬「キノホルム」。視力障害で問題になった腎臓病治療薬「クロロキン」。さらには血友病患者が血液製剤でエイズウイルスに感染した「薬害エイズ事件」。血液製剤でC型肝炎ウイルスに感染した「薬害肝炎」。開頭手術の際の硬膜移植による「薬害ヤコブ病」。薬害は人命を奪う深刻なものが多い。

なぜこうした薬害は繰り返されるのか。多くのケースで製薬会社は兆候を無視し、目先の利益を優先している。行政も被害を小さく見積もり、監督責任を放棄する。その結果、対応が遅れ、被害が拡大する。薬害の構造は同じである。