誤用は無意識に母語に当てはめることで生じる
最初の文は書類を読んでおくようにという指示だからHe told his staff to take a look at that document.のようにtellを使うのが適切である。
2番目の文は、He said to/told me that he would go to the US the next day.のようにsay, tellの2通りの可能性がある。「私に直接伝えた」というニュアンスならtellを使うが、誰か別の人に言っていたのを聞いたのだったらsayを使う。状況によって動詞の選択は違ってくる。
「言う」とsay, talk, tellは日本語のほうが意味範囲が広いケースだが、その逆もある。たとえばwearの意味範囲が「着る」と同じだと思ってしまう。すると、どういうことが起きるかと言うと、Look at the cool pants/shoes/hat/necklace/glasses she is wearing.という「正しい」英文を、非常に多くの日本の学習者が「不自然である」と判断してしまうのだ。ズボン・靴・帽子・ネックレス・眼鏡という、日本語で「着る」と言わないものをwearの目的語にした英文だからである。
座敷に上がるために靴を脱いだとき、靴下に穴があいていて「恥ずかしかった」と言いたい場合、何と言うだろうか? 「恥ずかしい」をWeblio英和・和英辞典で検索すると、第一の語義として<恥ずべき>があり、対応する英単語としてdisgraceful; shamefulとある。さらに「恥ずかしい」の第二の語義として、<きまりが悪い>があり、be ashamed《of》; be embarrassed《by, about》と書かれている。
日本語スキーマから“点”を拡張するしか手立てがない
たったこれだけの手がかりから、その単語を使うことができるすべての状況を推論し、面としての意味を復元するのは不可能なことである。いきおい学習者は、日本語スキーマから点を拡張するしか手立てがない。このような辞書の記述から「恥ずかしい」=ashamed=embarrassedの公式を学習者が作ってしまうのは、まったくもって、もっともなことである。
しかし、ashamedは「本来してはいけないことを知りつつもしてしまって恥ずかしい」という罪の意識を伴ったときに使うので、靴下に穴があいていて「恥ずかしかった」という状況で使うと、英語母語話者には奇異に聞こえてしまう。
ここではI feel embarrassed.がもっとずっと自然な言いかたである。しかし、一度「恥ずかしい」=ashamedの公式が頭に入ってしまうと、他の言いかたは、聞いてもスルーしてしまい、なかなか入ってこない。やっとembarrassedを覚えても、こんどはashamed=embarrassedの公式を作ってしまう。
日本語話者はさらに、shyも「恥ずかしい」として記憶しているので、靴下に穴があいていて恥ずかしいと言いたいときに、I am shy to find a hole in my sock.などのように言ってしまう誤用も散見される。
shyは状況ではなく、性格のことを表すので、ashamedとshyは英語話者にはまったく違うことばであるが、日本語では「恥ずかしい」と「恥ずかしがりや」の語根が同じなので、混同してしまうのである。