英語を使いこなすにはどうすればいいのか。慶應義塾大学環境情報学部の今井むつみ教授は「英語を日本語に置き換えているうちは難しい。無意識に自動的に使えるようになるためには、5つのステップを踏む必要がある」という——。

※本稿は、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

オフィスでコミュニケーションをとる
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「単語の意味がズレている」英語が上達しない根本原因

ことばの意味は点ではなく面である。「hear=聞く」のようにフラッシュカードや語彙リストで与えられている英単語は、じつは「意味」とは言えない。

面としての単語の意味の一つの点にすぎない。『英語独習法』で述べたように、子どもはある状況の中で発せられた意味の点から面を推測してことばを覚えていく。

外国語学習者も同じだ。学ぼうとしている言語での分類のしかた、面としての単語の意味を、点としての例文や辞書にある説明から推測することになる。しかし、そもそもその外国語を知らないので、母語によって自分が作りあげた分類のしかた(母語の単語スキーマ※)をよりどころにして面の範囲を決めるしかないのである。つまり、無意識に母語の単語がもつ意味の範囲を使ってしまう。これはごく自然なことである。

※スキーマとは、ある事柄についての枠組みとなる知識のこと。多くの場合、人はスキーマの存在に気づかず、無意識に使っているが、スキーマはどの情報に注目し、記憶するかに大きな影響を与える。スキーマについては『英語独習法』第2章に詳しい説明がある。

母語の意味範囲を誤って外国語に適用してしまう誤用例は枚挙に暇がない。たとえば、中国からの留学生は「薬を食べるのを忘れました」とよく言う。私たちは「薬を食べる」をヘンだと思う。

しかし、同じような誤りを私たちも英語でしてしまう。たとえば「彼はこの書類に目を通しておくように部下に言った」と「彼は明日アメリカに行くよと言った」を英語にするとき、「言う」に当たるのはsay, talk, tellのどれでもいいんじゃない、と思ってしまったりするのだが、そうではないのだ。