大炎上したDHC会長の発言

確かに、ナイキのCMでは差別が直接的に描かれていたようにも思える。いきなり髪を引っ張るような差別があるなどと、信じられない人もいただろう。

他方、日本には歴然とした人種差別、在日外国人差別がある。化粧品販売の大手である、DHCグループの吉田嘉明会長の署名入りで掲載された「ヤケクソくじについて」という2020年11月付の文章にはこんな言葉がつづられていた。

「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です。」

※出典(2020年12月16日時点):ヤケクソくじについて

画像=DHCのウェブサイトより

これを受けて、12月16日にはTwitterで「#差別企業DHCの商品は買いません」がトレンドに上がるほど批判的投稿が相次いだ。

「こんな外国人差別は日本にないはずだ」と吹き上がるのも、「こんな差別を許せない」と怒るのも同じ日本のSNSだったというわけだ。もとい、日本では差別があるはずがない、だから差別的言動をする人間を徹底的に許さない、という潔癖な価値観がここに垣間見える。

ナイキのマーケティングにおける成功と改善点

筆者は政治的にはリベラルであり、人種差別には猛烈に抗議する。ナイキのCMに登場した在日コリアン差別も、身近で知人・友人が経験してきたものに近かった。だから私のような経験を持つ人間にとって、ナイキのCMは刺さるものだった。

これは私が、動画をみてすぐに反応した投稿である。個人的にナイキへの好感度は大きく上がり、購入したいと強く思わされた。

私のようなファンを増やした一方で、マーケターとしての目線に戻ると、さらなる改善点もあったと考えている。というのも、ナイキのCMはあまりにも表現が尖っていたため、一部の視聴者を突き刺してしまったからだ。

マーケティング用語に「インサイト」というものがある。簡単に説明すると「隠れた本音」という意味だ。人は普段、世間体や好感度を気にして発言する。

たとえば、好みの恋愛対象を聞かれて「胸さえ大きければなんでもいいです」とか「親が気に入る相手なら、あとは何でも構わない」などと公に言える場面は限られるだろう。正直すぎる人は、社会から見れば危ない人だ。だから人は日常的に、本音をうまく隠して生きている。

こうしたインサイトは、消費者のヒアリング調査を丹念にしていくと見えてくる。「実はこの人、家事が全然好きじゃないな」だとか「クルマに興味があると言っているけれど、本音は男同士の関係で褒められたいからいいスポーツカーを探しているな」といった本音を洗い出すのが、マーケターの醍醐味でもある。

こうして掘り出されたインサイトを突くCMは、得てして大ヒット商品へつながる。消費者が本音で求めているものへ、届くメッセージになるからだ。