政府の介入に賛否両論あるが…

NTTドコモが携帯電話(スマートフォン)の新料金プラン“ahamo(アハモ)”を発表した。5G対応で料金は月額2,980円、データ容量は20ギガで、1回につき5分までの無料通話がつく。同社が新しい低料金プランを発表した背景の一つには、政府の介入がある。

データ通信容量20ギガバイトで月額2980円の新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表するNTTドコモの井伊基之社長
写真=時事通信フォト
データ通信容量20ギガバイトで月額2980円の新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表するNTTドコモの井伊基之社長=2020年12月3日、東京都渋谷区

経済学の創始者といわれるアダム・スミスはその著書『諸国民の富』の中で、「わたしたちは、自分自身の利益を追求することによって、より有効に社会全体の利益を高めることができる場合がある」と説いた。それを根底に、伝統的な経済学は市場には多数の需要者と、供給者が存在し、それぞれが等しく情報を持つという“完全競争”を前提に、有限な生産要素が市場メカニズムによって再配分され、その結果として経済が成長すると考えてきた。

しかし、現実の社会はそうした理屈通りではない。わが国の携帯電話市場はそのよい例だ。わが国の通信大手3社の営業利益率は20%を超え、シェアは99.7%と寡占状態にある。賛否両論あるものの、寡占化する市場を改善するために、政府が一定の介入を行って企業間の競争を促し、より公平・公正な市場環境を目指す発想は大切だ。

寡占市場で値下げを始めると何が起きるか

菅政権は、携帯電話市場に介入して、大手3社による寡占化を是正しようと取り組んでいる。それは経済全体での厚生を高めるために必要な取り組みといえる。

伝統的な経済学の理論では、完全競争が成立している市場では、“神の見えざる手”に導かれるかのようにして需要と供給が均衡して価格が形成され、経済全体にとって最善の状態が達成されると考えられてきた。そうした完全競争の市場では、個々の供給者と需要者の行動が変わったとしても価格には影響がない。政府は市場に介入すべきではない(人々の自由な経済活動を尊重すべき)とされる。

しかし、わが国の携帯電話市場は、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社の寡占状態にある。寡占とは、少数の企業が市場の大部分を占有する状態のことだ。寡占状態にある市場で、1社が携帯電話料金を引き下げてシェアの拡大を狙ったとしよう。すると、競合する企業は対抗措置として低価格の料金プランを打ち出してシェアの維持と向上を目指す。その結果、価格競争が激化し、最終的に寡占化した市場で獲得されてきた高い利益率(超過利潤)は低下する。

そうした展開を避けるために、寡占が続く市場(競合相手の顔が見える状態)において、各社は自社のシェアを維持し、価格の維持を重視するようになる。