3社の利益率は消費者の負担で支えられてきた
データを確認すると、わが国企業の中で携帯電話3社の利益率はかなり高い。それに加えて3社の利益率の水準は、事実上、横並びだ。2021年3月期の上期決算における営業利益率は、NTTドコモが24.7%、KDDIが23.2%、ソフトバンクが24.3%だった。
それに対して、財務省が発表した法人企業統計調査(2020年7~9月期)によると全産業(金融保険業を除く)の平均的な営業利益率は2.8%だった。資本金の規模が10億円以上の企業の場合、利益率の平均は3.9%だった。業種別にみると製造業が2.9%、非製造業が4.6%だ。それを見ると、携帯大手3社の利益率がいかに高いかがよく分かる。見方を変えると、携帯電話大手3社の高い利益率は消費者の負担によって支えられてきた。
料金プランは諸外国と比べて割高
わが国の世論調査の結果を見ると、菅政権による携帯電話料金引き下げへの期待は高い。また、2020年3月に総務省が実施した『携帯電話の料金等に関する利用者の意識調査』によると、回答者の4割が料金は高いと感じ、安いと感じている回答者の割合は2割だった。携帯電話各社の料金体系が社会の納得を得ているとは言いづらい。
また、総務省が発表した『電気通信サービスに係る内外価格差調査』を見ると、国際的に見てわが国の携帯電話利用料金は中から高水準にある。特に、20GBの料金は国際的に見て高い。2GB、5GB、20GBのいずれの容量においても、わが国の利用料金はロンドン、パリ、デュッセルドルフを上回っている。消費者の不満と価格水準をあわせて考えると、料金引き下げの余地はあるだろう。
本来であれば、公正取引委員会が寡占状態の解消に向けて行政調査や意見聴取を行い、料金の引き下げに向けた議論を進める。公正取引委員会は、わが国携帯電話料金体系の背景には、端末と通信サービスのセット販売や、“2年縛り(2年間の通信サービスの継続利用を前提に料金を割り引く販売方法)”などがあると指摘してきた。
格安スマホ業者との競争促進にもつながる
ただし、公正取引委員会の調査には時間がかかる。また、客観的に寡占状態の問題を企業に示し、理解を得ることも容易ではない。それは、米GAFAMなど大手IT企業の巨大化を食い止めることの難しさを見ればよく分かる。
このように考えると、前政権での官房長官時代から菅氏が携帯電話料金の引き下げを重視したことには、相応の説得力がある。今回の政府介入は、競争の促進にもつながるだろう。NTTドコモは政府の要請への対応に加え、若年層ユーザー獲得のために新料金プランを発表した。それは他の大手2社や格安スマホ業者と呼ばれる“仮想移動体通信事業者(MVNO)”の危機感を高め、価格に見合ったサービスの提供や、新しい通信技術の開発への取り組みが進むだろう。