なぜ日本では結果を出せなかったのか
売り推奨レポートが発表された時点で5310円だったペプチドリームの株価は、今年4月に3265円まで下落し、その後、米メルク(化学・医薬メーカー)と特殊ペプチドを用いた抗コロナウイルス治療薬を共同開発することを発表したため、12月11日時点で5510円となった。株価が下がった時点で売っていれば、カラ売りは成功している可能性がある。
日本において、マディ・ウォーターズが中国ほど目覚ましい成績を上げられていないのは、中国企業(特に裏口上場で米国に上場したような会社)のような極端な不正会計が少なく、また同ファンドが優秀な日本人アナリストや情報ネットワークを獲得できていないためと思われる。
「殺し屋」が狙う次のターゲットは…
最近、マディ・ウォーターズは“コロナ禍の勝ち組”をターゲットにし始めている。
今年5月、中国のオンライン教育プラットフォームでニューヨーク証券取引所に上場している跟誰学(GSX Techedu、北京)を「同社のユーザーの7~8割はフェイクで、実態は巨額の損失を出している。同社の会長は3億1800万ドル相当の同社株を担保に入れており、貸し手がそれを処分し始めれば、株価は暴落する」として売り推奨した。
11月には、中国のライブ配信大手でナスダックに上場している、歓衆集団(JOYY Inc.、広州市)を「歌やトークをライブ配信する芸能人らに対する投げ銭はロボットなどによるもの。同社の配信の9割はフェイク」として売り推奨した。
医療関係、PC周り、デリバリー事業など
中国企業以外にも、4月に米国の民間医療保険販売プラットフォームを運営しているイー・ヘルス(eHealth Inc.)を、9月に米国の医薬品関連バイオテクノロジー企業、イノヴィオ・ファーマシューティカルズ(Inovio Pharmaceuticals Inc.)とイスラエルの医療画像診断・サービス会社、ナノ・エックス・イメージング(Nano-X Imaging Ltd.)を、11月に米国の医療分野のデータ分析・コスト管理サービス会社、マルチプラン(Multiplan Inc.)を、それぞれカラ売りした。
先に述べたペプチドドリームも、メルクとの共同開発が進まないと見れば、再びカラ売りするかもしれない。
世界的にも、“コロナ禍の勝ち組”として株価が上昇した医療関係、製薬、PC・IT関連、自宅エクササイズ機器、ホームオフィス用家具、食品雑貨のデリバリー販売、釣り具関連などに対して、根拠なく株価が上がった企業がないか見直しの動きがあり、マディ・ウォーターズの動きもこの流れに沿うものだ。カラ売りは結果が出るまで数年を要することもざらで、今後の攻防の行方が注目される。