また、外国人患者の受け入れによって症例が蓄積されていけば、先進医療の分野における診断機器や治療機器などの技術力も伸ばしていける。「日本は医療機器で5315億円の輸入超過(08年実績)に甘んじている。この数字をプラスに逆転するだけでも、1兆円以上の経済効果が出てくる」と亀田理事長は指摘する。

その一方で、「日本の経済は行き詰まっており、医療費はどんどん足りなくなっていくだろう。そうした厳しい現状を解決していくためには、知的財産でもある医療技術を海外に輸出していくことが大切だ」と語り、独自の戦略を打ち立てているのが福島県郡山市にある総合南東北病院の渡邉一夫総長である。

同病院は08年10月に国内の民間病院としてはじめて粒子加速装置のシンクロトロンを備えた「南東北がん陽子線治療センター」を開設。あらかじめPET/CTで測定しておいたがん組織に放射線の一種である陽子線を照射し、がん細胞のDNAを破壊する。肺がん、肝臓がん、食道がんなどに有効とされ、「手術をせず、仕事をしながらでも治療できる」と渡邉総長が胸を張る画期的な治療法なのだ。

現在、同病院ではタイの4つの医療機関と提携話を進めており、10年の夏、バンコクから1人目となる肝臓がんの患者が、陽子線治療を受けるために2ヵ月間滞在した。陽子線治療の医療費は、日本人でも保険適用外の自由診療扱いとなって約300万円かかる。これが外国人の場合になると、治療内容によって600万~1000万円ほど請求されることになる。

陽子線の治療装置の減価償却費は1台当たり年間10億円。それだけに外国人患者の受け入れは、治療装置の維持を含めた病院経営の安定化につながる。確かに一見高額に思える治療費だが、米国で同様の陽子線治療を受けると2000万円前後かかり、国際的な“価格競争力”を十分に備えているといえそうだ。

そして、渡邉総長は陽子線治療を外国人患者受け入れの目的だけに使うのではなく、ハード・ソフトの両方を海外に輸出することを考えている。現在、日本の原子力発電の高い技術力が海外で注目されているが、放射線の一種である陽子線を医療分野で活用する技術も原発のオペレーションから生まれたもの。それゆえ「装置は世界ナンバーワンのうえ、これまで蓄積してきた治療ノウハウも他国をリードする」と渡邉総長は自負する。

※すべて雑誌掲載当時

(坂井 和、本田 匡=撮影)