[1] 「集中」をモットーにしよう

集中を持続するためには何が必要だろうか。手始めに、現実的な姿勢、単純さ、明快さについて考えてみよう。

「『わが社の資源を鑑みて、この計画はどの程度、現実的か』と、常に自問しなくてはいけない」と、ケスター・マニュファクチャリングのCEO、ロジャー・サベッジは言う。「実行計画が現実的だと思えない場合は、実行するための資源を見つけだすか、さもなければ別の計画に変える必要がある」。

現実主義の必要性を、より高レベルのパフォーマンスを促す背伸びした目標の効用と折り合わせるにはどうすればよいか。ケスター社では、「やるべき仕事をリストアップして、それを経営資源と照らし合わせ、ガント・チャート(やるべき仕事や活動の所要時間と順序を示す図表)を使って、確実にすべてを実行可能にする」とサベッジは言う。

単純さと明快さは表裏一体のものだ。戦略はできるだけ単純であるべきだが、けっして単純すぎてはいけない。とはいうものの、一定レベル以上の複雑さになると、実行計画の細かいニュアンスを組織全体に伝えるのはむずかしい。ある時点で、計画の最も重要な80%を達成するうえでの自分の役割を大半の社員が明確に理解できるようにすることが、残りの20%をすべての社員に伝えることより重要になる。

ダイムラー・クライスラーの事業戦略ディレクターで、同社を1年未満で黒字転換させた実行プロセスの推進に不可欠な役割を果たしたビル・ルッソは、一般的に(目標は)少ないほどよいと言う。「われわれは『きわめて重要な2、3の』目標を特定することに全力を傾け、最終的に5つに絞った」。

PRドネリーの子会社でシカゴを本拠とするPRDディレクトでは、同社の主要評価基準に沿ったパフォーマンスが過去1年で50%向上したと、CEOのティム・ストラットマンは語る。この成功は「組織全体で広く理解されている単純かつ明快な目標」のおかげだと彼は言う。UPSでは、「PCM(始業前コミュニケーション・ミーティング)と呼ばれる手法を使っている」とワイドメイヤーは語る。「毎日、朝一で、強制的な3分間のコミュニケーション・ミーティングを行って、目標を確認し、問題点を洗い出している。これを全社で合計すると、年間で延べ400万時間以上のコミュニケーションが行われていることになる」。

戦略を本質的な要素に絞り込むことで、社員の理解を深めることができる。

戦略実行が専門のシカゴのコンサルティング会社、フォース・フロアのCEO、ボブ・ザゴッタは、よくある一方通行のコミュニケーションではなく、「1日、もしくは半日の実行準備ワークショップ」を行うよう、勧める。

「CEOが計画を説明し、その後、社員と一緒に各部署にとっての意味や優先順位をはっきりさせていく。このような実行準備を行うことで、あいまいな部分を明確にし、理解と行動のギャップを埋め、計画を意味のあるものにするのに必要な細部の理解を参加者に与えることができる。

向こう12カ月ないし24カ月の主要重点課題について基本的な質問をして、出てきた答えに大きなばらつきがあったら、それは社員が戦略をはっきり理解していないというシグナルだ」