職人肌のココロ芸に気持ちよく酔うのもたまらなくいい

あと親子の葛藤を描いた映画として、『エデンの東』もはずせないね。

農場を営む父親に2人の息子がいるんだけど、性格は正反対。まさに聖書に登場するカインとアベルなんだ。兄貴のほうはマジメで素直なので可愛がられているのに、ちょっとスネた感じで、かたくなな弟のジェームズ・ディーンは疎まれている。

やがて弟は父親から認められたいと願い、果敢な行動に出るが、すべて理解されず、ラスト近く、脳疾患で喋れない父が介護の女性に対し、ディーンに囁く。「あの女をなんとかしろ!」。やっと父との交流、そして別れ……。ただひたすらジーンとくる。

最近の作品では、だらしない夫と几帳面な妻が、いろいろありながらもつつましく90年代という時代を生きていく『ぐるりのこと。』も佳作。

あの夫婦の晩年は結構、いいじいさんとばあさんになるような気がして、心洗われるんだ。それとこの映画は、人間の生活する息吹が伝わってくるんだよね。干してある洗濯物一つにしても、ここまで完璧にやることはないだろうというぐらい、監督の目が隅々にまで行き渡っている。

監督の橋口亮輔さんは商業目的ではなく、自分のココロの思いを形にすることを最優先したのがわかるね。ちょっとおとぎ噺を見ている感じがするよ。また主役のリリー・フランキーの顔つきが俺によく似てるんだ(笑)。誰も言わないけど、メガネをかけたらきっとそっくりだと思うね。

俺はそういうココロ芸の監督がつくった作品が大好き。俺自身もそうだったしね。だから、『たそがれ清兵衛』もヒューマン芸に感動しつつ、しみじみとホロリ。

主人公の清兵衛は下級藩士で、定時になるとすぐ帰って家事と内職ばかりしている。時代劇ではいつもかっこいい侍しか出ないけど、実際はあんな貧乏侍もいたはずで、そのリアルな哀れさがなんともいいんだ。

清兵衛は剣の腕があることがわかって、上意討ちの手に抜擢される。まさに監督の狙い通りに気持ちよくなる展開。「ああ、いいなあ、切ないなぁ」と思わせる山田洋次監督の演出の巧みさ。『寅さん』だって全部同じ内容なのに、いつも心動かされて、楽しい気分で観終わっちゃうでしょう。そんな職人の技と、ヒトの心のわかる演出に酔う。

2009年、アカデミー賞外国語映画賞を受賞して話題になった『おくりびと』もいい作品だった。

主人公は遺体を棺に収める納棺師。少し前まで日本映画は“ハレ”と“ケ”でいう“ハレ”の役割を担っていたから、死や葬式、ましてや遺体がテーマになるなんてありえなかった。それが今や遺体が感動を呼ぶなんて、非常に好ましいこと。

なかでも遺族が納棺師に感謝するセリフ――「死んだときの娘がいちばん美しかった。ありがとうございました」が悲しすぎたね。遺体になってようやく自分の娘のあまりの美しさに気づいたのかと。子を持つ親なら、誰でもああいうシーンにはただ感涙。

この作品をつくった滝田洋二郎監督は俺のもとで助監督を長く務めていたこともあったけど、それが理由で薦めてるんじゃない。ただ純粋に普遍的な作品として素晴らしい。

ほかにも邦画で観てほしいのが、吉永小百合演じるヒロインが難病に侵されて、青春のはかなさを描いた『愛と死をみつめて』。“悲病”ものはいろいろあるけれど、60年代では完成度が高い一作。

それと『二十四の瞳』は、島に赴任した女教師が、12人の生徒と心を通わせる物語。高峰秀子が終盤近く島中を自転車で走るシーンが印象的で感涙。

少年院を舞台にした『サード』は、「サード」と呼ばれるどこか冷淡な少年がすぐケンカしたりと、まっすぐな不良ぶりが哀しくも光る。サードを演じた永島敏行は、あの時代の若者を見事に切り取っています。