「自分で考えろ」よりまず仕組みをつくれ

100出したアイデアもそのままでは生かせません。そこで会社がブラッシュアップの仕組みをつくる必要があります。出てきたアイデアを選り分けるのは会議の席上ですが、そこで残ったアイデアをブラッシュアップしていく旗振り役は、各カテゴリーごとに指名して2~4名ほどにあたらせています。指名するのは経営陣ではなく現場の長です。現場で力を発揮しそうな人物を選んでもらい、選ばれた本人は何としてもアイデアを製品にしなくてはと責任を自覚する。そこで考える力がつき、思考力が高まるのです。

カテゴリー制をしいた理由は、一つには技術開発、研究、マーケティングそれぞれの部署が分断することなく三位一体となった開発を推進するためですが、採算性のいい製品カテゴリーだけに開発が集中するのを避ける狙いもありました。当社の得意分野は芳香・消臭剤ですが、芳香・消臭剤だけ新製品が出て、ほかからはなかなか出てこないようでは、企業としての価値が損なわれかねません。カテゴリーごとに人材を均等に配置し、それぞれの部門を競わせれば、オーラルケアや衛生雑貨からもヒット商品が生まれる可能性が高まります。カテゴリー制は、開発体制を整えるための組織なのです。

そして、次のステップとして、この4月から事業部制に移行しました。6つのカテゴリーを日用品とヘルスケアに分類して2事業部とし、さらに開発だけでなく利益管理も各事業部の裁量で行うように改めたのです。利益管理まで任されるということは、自分のグループの個別最適を優先していたのを、全体最適に切り替えて発想しなくてはならないということです。事業部という大きな組織の中で、マーケティングや技術開発など異なる職域の担当者がそれぞれコスト意識を持ち、折り合いをつけることで組織全体が利益体質へと変わっていくはずです。

業務改善なども含めて全社員が自由に会社にアイデアを出す制度もあります。もう27年続いていて、ナンバーワンになる社員は1年間で大体250から280の提案をしてくる。勤務日数で割ると1日1案以上です。多ければよいとは限りませんが、ある程度は量を出さなければ、質もついてこないということです。

提案にすぐフィードバックすることも大切な仕組みです。当社では提案を受けつける専門部署を設置し、そこが提案に目を通して関連部署に振り分け、すぐに評価を促すという方法をとっています。「面白い」などと反応があればまた提案しようという気になりますから。

とにかく「自分で考えろ」というだけでは足りません。考えるための仕組みや環境を用意することが絶対に必要です。

海外事業部長を務めていた時代、何度か外国人のアイデアや合理的な仕組みづくりに感銘を受けたことがあります。例えば、米国で物流の現場を見にいったときのこと。アドレス出庫というのですが、倉庫の棚に番地が書いてあって、「Aの5列目の上から3段目の商品をいくつ」といった指示に従って商品を運びだしていました。これには衝撃を受けました。移民の国で英語が読めない人がいるという前提あっての工夫です。アルファベットと数字さえわかれば確実に仕事ができるようになっている。日本なら担当が商品名をもとに保管場所を覚えて運びだすでしょうが、それは誰もが日本語の商品名が理解できるほど知的レベルが平均的に高いという前提があればこそです。ただ、一方で誰もが同じように考えるはずという前提によって、日本人のクリエーティブな発想や、合理的な仕組みを思いつく力が失われているのではないかと思いました。

(石田純子=構成 小林禎弘=撮影)