「最悪、貯金が底をついても、それはそれでご長男の人生ですよ」

聞けば、長男の将来が心配で、リタイア後も大きな旅行はせずに、倹約に努めてきたそうです。それを聞いて私は言いました。

「確かにシミュレーションではそうなのですが……。いいじゃないですか、温泉ぐらい行きましょうよ。いままで一生懸命働いて、一生懸命倹約してきたんですから!」
「息子はどうなるんですか?」
「貯金が乏しくなってきたら支出を抑えるでしょうし、それでも足りなくなれば自宅を売ることもできますから、何とかするでしょう。最悪、貯金が底をついて生活保護申請することになったとしても、それはそれでご長男の人生ですから」

ファイナンシャル・プランナーとして、こんな答えはほめられたものではありません。それでも私は言わずにはいられませんでした。両親は、懸命に働いて貯蓄をし、長男のためにできるだけ使わずに貯めてきました。老後に多少使っても罰は当たらないでしょう。

普段、働けないお子さんがいる家族からの相談では、お子さんの平均寿命まで貯蓄が維持できるように改善策を考えます。節約を勧め、できる限り多くの財産をお子さんに遺すこともお勧めしています。

無理して財産を遺すことはない。まずは親の老後の生活が優先

しかし、無理をしてまで財産を遺さなければならないとは考えていません。まずは親の老後の生活が優先です。介護に費用がかかることもあります。たまには楽しみがあってもよいでしょう。その上でお子さんの家計維持を考えたのでよいのではないでしょうか。

実際、貯蓄がかなり少なくなれば、自然と支出を抑えるようにもなります。状況によっては働き始めるかもしれません。はじめからアテにしてはいけませんが、どうしても生活していけないようであれば、公的な支援を頼ることもできます。

このような動きによる変化はシミュレーションに反映できませんが、本人の自覚を期待して、ある程度は突き放すことがあってもよいのではないでしょうか。できれば子供が安心して生活していけるように環境を整えてあげたいものですが、子供の老後の生活保障までが親の義務とは言えないでしょう。

鶏の唐揚げ弁当
写真=iStock.com/runin
※写真はイメージです

そう思うからこそ、私はご両親に「お子様のことも心配ですが、ご自身の生活を優先してください」と申し上げています。ファイナンシャル・プランナーとしては、改善策をご提案して、お子さんが生涯生活に困らないような資金計画をご提案したいと考えていますが、それがすべてではないとも思っています。ときには生活費が不足するシミュレーションのままで相談を完了とすることもあるのです。

「そうですね。息子の生活は心配なのですが、このぐらいの楽しみは許されますよね」
「もちろんです」

シミュレーションの結果を見たつい先ほどとは違って、夫婦には笑顔がありました。

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