日本の国益に関わる問題とは

中国はすでに日本の最大の貿易相手国であり、多数の日本企業が進出している。しかし、不思議なことに、欧米先進国が人民元の切り上げを強く要求するなかで、日本政府はだんまりを決め込んでいる。

人民元の動きに詳しい、富士通総研の主席エコノミストである柯隆氏は、その理由を「日本にとって、人民元の切り上げは国益に関わる重要な問題をはらんでいるから」と分析している。

「現在、中国に進出している日本企業は2万5000社です。これに技術供与や資本参加などで間接的に進出している企業も含めると、何と4万社を超えています。このなかには、大企業が数多く含まれているのですが、彼らは中国に工場を建て、そこでつくった商品を世界各国に輸出しています。したがって人民元が切り上げられたら、中国に進出している多くの日本の現地法人は、業績悪化に陥るでしょう。だから、日本政府は欧米先進国とは違って、人民元の切り上げ圧力を口にしないのです」(柯氏)

1985年のプラザ合意から急激な円高に見舞われて以来、日本の輸出企業は、より製造コストの安い中国などに積極的に進出し、辛うじて価格競争力を保ってきた。それから25年を経て、今度は人民元の切り上げ圧力が再び日本企業を悩ませている。

実際、中国でビジネス展開を図っている企業の多くは、人民元の切り上げに対してさまざまな対応策を検討している。が、それは、中国を消費マーケットとして見るのか、工場として見るのかによって、大きな差があるようだ。

たとえば、中国に20年以上前から進出、すでに現地で強いブランド力を形成している資生堂は、人民元の切り上げがあっても現地販売価格の値上げは行わず、切り上げの対策も一切行っていないという。これは、あくまでも中国を消費マーケットとして見ており、中国で販売している製品の7割を現地生産している企業だからだ。

これに対して、中国を世界に安い製品を販売するための「工場」ととらえている企業は、切り上げへの対応が必要になってくる。