高学歴で大手企業に勤めていた人の家もゴミ屋敷となる

家庭不和がなぜゴミ屋敷につながるのだろうか。

「“家”の共同体意識がなくなり、常に自分、個だけの動きとなったのだと感じます。誰とも関わりを持たない、持ちたくない、ゴミをため込むことにより他を寄せ付けず、威嚇するのです。私は“ゴミシェルター”と言っています」(石見さん)

自分を守るゴミシェルター。本人にとっては自分のつくりあげた作品であり、さらに強固な物に仕上げたいという心理が働いているように思える、と石見さんが補足する。

写真G-2:「息子エリア」である2階の様子。
撮影=笹井恵里子
写真G-2:「息子エリア」である2階の様子。

居住人にとってゴミはゴミでなく、ゴミこそが自分を守ってくれる唯一のアイテムということかもしれない。

このようなゴミ屋敷に住む人物像をあなたはどう想像するだろう。さまざまなケースがあるが、実は意外にも、高学歴で大手企業に勤めていた人の家がゴミ屋敷となってしまうケースが少なくない。

「喪失」を代償的に埋め合わせようと物をため込む

九州大学病院精神科の中尾智博教授によると「喪失体験」がゴミ屋敷化へのきっかけになりやすいという。

九州大学病院精神科の中尾智博教授
九州大学病院精神科の中尾智博教授

「子供時代なら両親の離婚や虐待、学校でのいじめ、成人してからなら死別や失業、離婚などが引き金になりやすい。私が診療した限りでは、半数以上の人に何かしらのきっかけがあります。いろいろな形で失ってしまった“体験”を代償的に埋め合わせる行為として物をため込むのです」

10月下旬、私は特異な孤独死現場にいた。近隣が「異臭」に気づき、管理人が踏み込むと、室内はゴミ屋敷で、その中で住人が亡くなっていたのだ。見つかる3カ月ほど前に死亡していたのではないかと推察されている。

室内に入ると、廊下に人サイズのシミがあった。そこで亡くなったと思われる。

この家は、これまでの自分が見聞きし、片付けていた家と何かが違った。ゴミはゴミ山でも、山の中身がきちんと整理されているのだ。