「モノを捨ててコトに走る」というのは不毛な二者択一

——なかなか複雑な連立方程式を解くような経営戦略ですね。

【藤本】SNSの時代においては、短くて、格好の良いキャッチコピーのような言葉が、一般にも資本市場にもアピールする傾向があります。しかし、そういう、バラバラの問題にバラバラに答えるタイプの言葉に、経営戦略をゆだねるのは危険かもしれません。

例えば「モノからコトヘ」ということが最近よく言われますが、それをキャッチフレーズに「もうモノは作らない。サービスに特化する」という経営戦略を口にする会社も散見されます。しかし、モノとコトは経済学的には代替関係ではなく補完関係にあるものです。

東京大学大学院の藤本隆宏教授。
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京大学大学院の藤本隆宏教授。

良いモノ(製品)があって、よいコト(サービス)が実現し、良いコトがあるから、良いモノが作れるのです。確かに、モノを売りっぱなしにするビジネスモデルには限界があり、客先に設置された自社のモノからデータを取ってコトにつなげるソリューションビジネスは、日本の多くの物財企業の行くべき道でしょう。

しかしそれは、あくまでも良いものを作ったうえでの話であり、モノを捨ててコトに走るというのは、言葉遊びとしては心地よいが、モノゴトの本質からは外れた、不毛な二者択一に見えます。経営者は、そういうはやり言葉にすぐには飛び付かず、まず連立方程式をじっくり解いてから一言を発する。つまり本質を地道に見極めながらの経営判断を下してもらいたいと思います。

(聞き手・構成=安井孝之)
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