日本のものづくり現場は小さくなりすぎている可能性がある

【藤本】ASEAN諸国をみると現状ではベトナムなど、中国に比べて低賃金の国が多く、工場の現場力やインフラの水準も徐々に上がっているので、日本企業の量産・輸出拠点として、より好適地となりつつあります。中国企業自体もASEANに生産拠点をシフトしている時代です。

東南アジアの国旗:ブルネイ、ミャンマー、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、東ティモール
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一方、日本のものづくり現場は、企業によっては、過去の短期的な経営判断から、あるべき姿よりも小さくなりすぎている可能性はあります。

むろん日本は人口減少と労働力不足が続きますから、国内量産工場の大建設は多くの場合考えにくいですが、それでも、設計の比較優位や、生産性、付加価値、荷姿などによっては、国内工場が輸出拠点として、今でも拡大しているケースは、電子部品、医療関連製品などの分野で、実際に見られます。要するに、グローバルな日本企業の国際拠点配置は、まさに産業次第、企業次第で異なります。

以上を総合すると、現在の日本企業のグルーバル・サプライチェーンの形は、全体最適の形に比べると相対比において「中国過大、日本過小、ASEAN過小」となっている場合もあるのではないかと考えます。つまりアフターコロナをにらんだ長期的な「競争力ファースト」の戦略として、「国内強化、ASEAN強化」へと修正する企業が少なからずあると考えます。いずれにせよ、グローバル・サプライチェーンの再編成は、あくまでも、短期的な新型コロナ危機対応ではなく、長期的な競争力重視で決めるべきです。

中国の工場と日本の工場の「進化」は異なってくる

——国内、中国、ASEANの工場はどのような位置づけになるのでしょうか。

【藤本】国内の優良工場は多くの場合、多能工のチームワーク力を蓄積してきた歴史的経緯から、「戦うマザー工場」として、複雑で面倒な擦り合わせ型アーキテクチャの部品や資本財や最終製品を、面倒な「変種変量変流生産」で作ることが得意です。今後、中国企業は遠隔操作でシンプルな製品をシンプルな流れで作る「お手軽な自動化工場」への指向を強めるでしょうから、日本企業とは進化の経路が異なってくると予想します。

一方、日本の優良国内工場は、工場のフロアに作業集団が残り、それをAIやサイバーフィジカルシステムが適宜支援し、ややこしい製品と工程を臨機応変に動かしていく形が、勝ちパターンになっていくと私は予想します。