広大な領土に多数の少数民族を抱える中国は、一方で各民族独自の文化や宗教を弾圧している。著述家の宇山卓栄氏は、「宗教は古今東西、対外工作と支配のツールとして利用されてきた。中国共産党は、国外の敵対勢力が国内の宗教団体をテコにして、反政府の動きを強めることを恐れている」と指摘する——。
※本稿は、宇山卓栄『「宗教」で読み解く世界史』(日本実業出版社)の一部を加筆・再編集したものです。
「モンゴル語教育制限」はなぜ始まったか
中国政府の宗教や民族の弾圧は、ウイグルやチベットだけではなく、南モンゴルにも及んでいます。中国政府は内モンゴル自治区において、学校での中国語教育を強制し、モンゴル語やモンゴル文化を教えることを制限しています。
モンゴル人は民族のアイデンティティを学ぶこともできません。行政や経済を取り仕切っているのは中国人であるため、中国語ができないと就職もできないようになっています。中国政府は「モンゴル語は先進的な科学技術や中国流の思想道徳を教えるのに不向き」などと理不尽な説明をしています。
今日、モンゴル民族は南北に分断され、北部は「モンゴル国」、南部は中国領の「内モンゴル自治区」と呼ばれます。モンゴル国の人口は約330万人、内モンゴル自治区の人口は約2800万人です。
この「内モンゴル」という言い方は中国に近い側を「内」と呼び、離れた側を「外」と呼ぶ中国本位の呼び方です。従って、モンゴル人たちは「南モンゴル」と呼びます。南モンゴル人はモンゴル人としての独自の言語や宗教文化を持っています。モンゴル人はチベット仏教を信奉しています。
チベット仏教指導者が考案したモンゴル文字
13世紀、チベット仏教の教主パスパはモンゴルのフビライ・ハンの参謀として活躍しました。パスパはモンゴル帝国の国師として迎えられ、チベット語を基に、モンゴルの公用文字パスパ文字をつくったことで知られます。パスパの影響で、モンゴル人のチベット仏教信奉が定着し、それが今日まで続いています。