中小企業の年収は、大企業の6割以下

低賃金で若者を雇用でき企業側のメリットが大きいことから、採用者の数自体は増えた。中小企業に就職した若者には5年間、所得税を全額免除するなど、各種の所得補填策を行っており、早期離職を抑える努力もしている。いずれも、大企業と中小企業の賃金格差を埋めることで、若者の就職先を大企業から中小企業に誘導する狙いがある。

政府がこうした対応策をとるのは、若者が中小企業を忌避する根本的原因が賃金格差によるものとみているからだ。根拠はある。

韓国経営者総協会が2018年に公表したデータによれば、29歳未満の大卒者の初任給は、従業員10〜99人規模の企業を100とした場合、従業員500人以上の大企業は152.1。正社員の平均年収では、大企業が6487万ウォンに対し、中小企業は3771万ウォンと、6割にも満たない。

また、韓国労働研究院の2019年の調査によれば、従業員数300人以下の企業の「正社員」よりも、300人以上の企業の非正規労働者の方が賃金水準は高い。

ただ、問題の本質は賃金格差だけではない。

韓国政府は、企業の海外進出により国内で良質な新規雇用を確保するには限界があるとみて、海外就労をバックアップしている。

海外で就職させると大学に成功報酬

雇用労働省などは、海外就職支援として「K Move」政策を推進中だ。海外企業を招いた就職面接会の開催、就職情報サイトの運営、各国版の海外就労の手引き書の発行、就労ビザを取得して海外企業に正式に就労した若者への定着金の支給といった事業が含まれる。

事業の柱は「K Moveスクール(海外就労研修プログラム)」である。四年制大学や専門大学を対象に、「海外就業プログラム」を競争的資金事業として毎年公募している。大学側は、現地のニーズに合わせた海外就業プログラムを立案し応募する。

基本プログラムは、IT、外食調理、貿易物流、生産管理、営業など、海外で就職できそうな業種の職業訓練と、現地語教育のセットである。斡旋会社と連携しながら受講生を現地で就職させる。就職先の主要な対象国は米国、日本、オーストラリア、東南アジア、中東である。

K Moveスクール運営校には、受講生の就職数に応じて成功報酬が支給される。各大学は、何とか就職率を上げようと必死になる。そのため、なかには受講生の希望や適性に合わない職種や、給与や労働条件が良好でない企業が就業先となることがあり、早期離職といった問題が起きている。